株暴落はアベノミクスの清算と経済正常化への道

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日銀が最大の株主の異常

史上最大の暴落となった株価は、6日に若干戻したものの、しばらく方向感覚が定まらないでしょう。欧米の株価の下落幅(2-3%)に対し、日本株の下落は12%、先月の最高値からは25%という大幅な下げです。日本が突出しており、日本固有の原因がありそうです。

日本株は世界市場で最も「仮装相場」の色彩が強いと、私は思ってきました。2013年から始まったアベノミクス(金融財政の異次元的な膨張政策)によって、日本株は「2本の竹馬」でかさ上げされた「仮装相場」だったからです。

日銀がETF(上場投信)の7%(時価総額74兆円)を買い、日本最大の株主になり、日本の株高を支えてきました。さらに国債発行残高の半分以上(588兆円)を日銀が保有するという世界に例をみない異形の国債政策を続けてきました。

それによるゼロ金利を海外の投資家が借りて(円キャリートレード)で、証券投資に回し、それも株高を演出しました。さらに隠れた狙いとして、円安政策もありました。日本のマネーで海外投資家は儲け、国民は物価高で苦しむ。政治主導でこうしたことをやってきた。

さすがに「円安→物価高→2、3%の消費者物価上昇の長期化」が国民生活を苦しめるに至り、植田・日銀新総裁が異次元緩和政策からの転換に着手しました。今回の株暴落は、「日銀の利上げ(7月末、0.25%)がよる。タイミングを間違えた」という証券関係者がおります。

タイミングをずらしても、同じような現象が起きたことでしょう。「史上最大の暴落」といっても、異形の金融財政政策による「竹馬に乗った仮装相場」がもとに戻ったという見方をしたい。企業経営者は「株高は自分の経営手腕の結果」と内心、思ってきたことでしょう。実態は政府、日銀の膨張政策で株価が踊ってきたにすぎないともいえます。

企業、産業が実態として悪化し、暴落が起きたわけではない。日銀は未だに異次元金融緩和の検証を終えていない。「実体経済が急激に悪化したわけではない。金融財政政策の方向転換に向う過程の減少で、暴落の原因はそこにある」とでも、言明すればいいのに、そうはいわない。

「アベノミクスの清算」とでも言うと、いまだに根を張っている安倍系の政治勢力、右派勢力の反撃が怖くて、正論を吐けない。鈴木財務相は「日銀とも連携し、緊張感をもって連携する」と、ほとんど意味のない空疎な発言をしました。これが日本の政治のレベルなのです。

株価の変動を大局的に観察すれば、「経済社会危機の発生→金融財政政策の出動→危機の収束→株価の上昇」となる。そこで引き締めに転換すべきなのに、政治的な反対圧力から転換できない。ぐずぐずしてうちに次の危機(リーマン金融危機、コロナ危機など)が発生し、拡張的な金融財政政策がとられている。危機が収束すると、株価が上昇する。その繰り返しでしょう。

各国政府、中央銀行から市場につぎ込まれた通貨供給量は実体経済(GDP)をはるかにしのぐ規模に膨張しています。ありあまったマネーが相場を押し上げ、異変を察知すると、よそへ逃避する。今回もそうでしょう。逃げた投資家が勝ち、情報がないまま逃げ遅れた一般投資家が負ける。

市場関係者、専門家も「米国で加熱していた半導体ブームがしぼんだ。日銀の利上げ(7月末)がサプライズとなり、日本ではパニックとなった」などと語る。こうした大局観のないコメントは参考になりません。もっと大きな構図で、「危機の発生→マネーの供給→膨張→バブル発生→収縮→危機の発生」というくりかえしを考察してほしいのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。