ウィーン国立歌劇場&クリスティアン・ティーレマン「ローエングリン」(ウィーン)

ウィーン国立歌劇場&クリスチャン・ティーレマン、「ローエングリン」。

今回の滞在目的は、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団&ムーティ”ベートーヴェンシンフォニー9番” 200年記念演奏会だけど、オペラ座では、昨日は「椿姫」今日は「ローエングリン」と、にっこりしちゃうプログラム。1日の間に、ムーティとティーレマンの両方を聴けるウィーンはほんと素敵。3月は、楽友協会でメータとラトルを同日で楽しめたし。

タイミングよくワーグナー上演で嬉しいなぁ、と、うきうきしながら着席、オケピットを覗き込む。

ホーネック&シュトイデという完璧な弦ツートップを筆頭に、シュッツ(昨日は「椿姫」で澄み切った音色出してた)、オッテンザマー(昨日今日、「第九」で信じられないほど美しい音色披露してた)、ホーラック(いつも情緒豊かでクリアなオーボエ聴かせてくれる)、と、木管三部門もトップをビシッと揃えてる。すごいねティーレマン、ムーティーよりよいメンバー揃えてきた。

悔しいでしょうね、ベートーヴェンの記念演奏会任されたのがムーティーで。ドイツ人の自分こそベートーヴェンを振るのにふさわしい、と思っていたのではないかしら?なんて、オケピット覗き込んでいろいろ妄想楽しむうちに、照明が落ちる。

18時、さあ、どっぷりワーグナーに浸からせてください♪

オーケストラと曲作りが、すーばーらーしー!

前奏曲、美しく震える高音に腰の座った低音が絡まる弦が素晴らしい。木管はもちろんのこと金管も研ぎ澄まされた音色。俺様ティーレマンの前で、下手な音だしたら怒られそうだものね(笑)。

ティーレマンのワーグナー、というかオペラ、初体験。演奏会ではいつもど〜んと重厚な音楽を聴かせてくれるので、オペラもそうかと思ったら違った。荘厳ではあるけれど、悠々として、華やかで華麗、そして気高い。うわぁ、しびれる・・。

盛り上げ方も実に見事で、ローエングリン登場シーンや、身分明かすシーンなど、興奮で体が熱くなる。このオペラを愛したルードヴィッヒ2世も、同じような興奮に包まれ、ワーグナーの虜になったのでしょうね。

弦の繊細かつ悠然とした表現力、木管の澄み切ったそれはそれは美しい音色(フルート、クラ、オーボエのソロの度、下を覗き込まずにはいられない)、そして艶やかで華やかな金管軍に迫力たっぷりパーカッション、全て素晴らしい。合唱多いオペラなので、合唱の迫力も堪能できる。

ティーレマン、楽譜は置いているけれど一度もめくらず。時に、椅子からずり落ちそうな格好で(腰に悪そう)実に丁寧に振っている。くー、やっぱり好きだなぁ、この人の音楽。

左側、ワーグナーからリストへの手紙。
この作品を初演したのは、逃亡中のワーグナーでなくリストだった。

歌手陣は、そつなくお上手。文句はまったくない。

タイトルロール、デイヴィット・バッド・フィリップ。出てきた瞬間、レオナルドの”サルバトール・ムンディ”にあまりに似ていてびっくり。”救世主”という意味で、この絵画に寄せてると思う。歯並びが信じられないくらい悪くて、さらにびっくり。

エルザ、ハインリッヒ、テルラムンドも含め、さすがウィーン、パリとは集められる歌手のレベルが違って、きっちり聴かせてくれる。去年のトリスタンや一昨年のワルキューレ&黄昏で味わった痺れるような感動興奮はないにしても。今夜のピカイチは、オルトルートのアニャ・カンペ。彼女が一番ワーグナー的と感じる。

演出&セット&衣装、んー。これ、いつできたプロダクションだろう?なんというか、お金かかってない感じ。セットはずーっと一緒。細かい細工で違うふうに見せてはいるけれど、もちょっとセット変換の楽しさとか見たかったな。始まる前から舞台はじに、廉価スーパーのエコバッグみたいなのが置いてあるの見た時から、嫌な予感したけれど、決して美しくはない。イメージは、1910年代?第一次世界大戦のイメージを少し重ねてる気がする。

ローエングリンの衣装、登場シーンで驚いたけれど、最終的には、現実と理想のつぎはぎなのだと解釈できたし、だからこそエルザは現実→理想→現実で着替えなくちゃいけなかったのでしょう。

演劇博物館に飾られてた、20世紀初頭の「ローエングリン」舞台と衣装の感じ。

今夜のと全然違う〜(笑)

この作品最大の演出見せ場は、白鳥に乗ってやってくるローエングリンの登場シーン。だけど、白鳥に乗らず、歩いてきた?私の席から見えなかっただけかと思ったけど、数日後ストリーミング見てもやっぱり乗歩いて登場。

そして、白鳥、ちっちゃ。ペンダントトップになっちゃってるよ(笑)。でも、”鎖につながれた”意味もちゃんとあるし、ちょこちょこした演出はそれなりに面白い。ラスト、弟が水死体的に出てきてエルザを殺したのには、ちょっと慄いた。で、ちっちゃな白鳥どうするのかと思ったら、なるほどねぇ。つまり、オルトルートが大切に握っていた”白鳥と鎖”はフェイクだったのか・・。

素晴らしい演出ではないけれど、気分悪くはならないし、ちょこちょこ興味深いところもあるので、よし。

「ローエングリン」は、愛するワーグナーの中では、好きなランク的には下位なのだけれど(他があまりに良すぎる)、今夜のオケと指揮者の見事さで、ワクワクドキドキ感動が途切れることなくずーっと持続し、ワーグナーの世界観に完全没入、満喫。

大興奮大喝采の観客をよそに、オーケストラ奏者たちはすぐに帰っちゃう。
最後の最後は、ティーレマンだけが、大喝采に応えて登場。
今宵のスターは、歌手たちでなく、指揮者&オーケストラ。

来シーズンのウィーン旅は、ワーグナーに全然当たらず残念。オペラを目当てにウィーン旅をするようになれるといいのだけれど。宝くじ当てなくちゃね・・。

感動と興奮でお腹ぺこぺこ。
いつものデューラーウサギスタンドで、夜食ホットドック。

22時半の空。ほとんど夏。明日も暑くなりそうね。


編集部より:この記事は加納雪乃さんのブログ「パリのおいしい日々5」2024年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「パリのおいしい日々5」をご覧ください。