環境保護運動の過激派グループ「最後の世代」、活動の終了を発表

環境保護運動の過激派グループ「最後の世代」は6日、活動の終了を発表した。「最後の世代」は、ドイツやオーストリアで地球温暖化防止を訴え、美術館、博物館で絵画や展示品にペンキをかけたり、ラッシュアワーの主要道路に座り込み車の通過を阻止するなどして、注目されてきた。

道路を封鎖する「最後の世代」の活動家たち(「最後の世代」公式サイトから)

「最後の世代」(ラスト・ジェネレーション)という名称は、「私たちは気候変動の影響を感じた最初の世代であり、それに対して何かが出来る最後の世代だ」と述べたバラク・オバマ元米大統領の2014年9月23日のツイートからとったもの。「最後の世代」は2021年にドイツとオーストリアで創設され2022年初頭から活動を開始してきた。今回、活動の終了を表明したのはオーストリアの「最後の世代」だ。

「最後の世代」が6日、発表した「オーストリア国民への手紙」を紹介する。手紙は「最後の世代」のホームページに公表されている。「親愛なる支持者の皆様、オーストリアの国民の皆様」という挨拶から始まる。

興味深い点は、最後の世代過去2年間あまりでどのような活動をしてきたかを記述していることだ。「私たちは様々な方法で抗議を行ってきた:道路に貼り付く、ハイウェイでの抗議、議会前での抗議、議会内での抗議、植樹、豪華な建物へのペイント抗議、プールでの抗議、騒音妨害、モータースポーツの中断、政治家や著名人との対話、デジタル抗議、ハイウェイでの吹奏楽団、化石燃料企業の株主総会を妨害すること、キャンプ、抗議行進、カバレット(風刺的な演劇)、政治家との対立、音楽コンサートの妨害、劇場の中断、自動車にセメントをくっつけること、連邦政府を訴えること、テレビ出演、パネルディスカッション、マラソンでの妨害、バナーの掲示、気候危機に関する啓発ビデオ、気候破壊についての情報夜会、スキーイベントの妨害、そして最後に空港での抗議」と書いている。

当方は「最後の世代」の活動開始直後からこのコラム欄でも数回、その過激な活動に対して批判的に論評してきた。これをみると「最後の世代」が過去、多種多様な活動をしてきたことが分かった。その結果、「暴力、殺害脅迫、逮捕や拘留、憎しみや数万ユーロの罰金を受けてきたが、私たちは続けてきた」と誇りを吐露している(「環境保護活動から『殺人事件』になる時」2023年5月12日「独『最後の世代』に大規模な強制捜査」2023年5月26日参考)。

オーストリア日刊紙クライネ・ツァイトゥングは2023年1月22日、「最後の世代」の運動が宗教的な衝動で動かされている面を指摘していた。「彼らは世界の終わりが差し迫っていると信じており、人々に改宗を求めている。歴史的に見て決して新しいことではない。キリスト教とそれによって形成されたヨーロッパの歴史は、世界の終わりとその預言者の歴史でもあった。『地球は燃えている』という叫びは、私たちの文化的記憶に定着している。火と硫黄に沈む様子は、ヨハネの黙示録の世界だ。この地球上の最後の世代であるという考えは、既存の世界の終わりと新しい世界の夜明けを常に期待して生きた最初のクリスチャンの姿だった」と分析している。「最後の世代」の活動家には世界の終わりといった「終末観」が強く、それゆえに「この世の法など無視しても構わない」といった論理が生まれてきたのだろう。

「最後の世代」が活動終了に追い込まれたのは、空港内に侵入して、フライトの妨害をしたことだろう。夏季休暇で多くの国民が旅行に行くために空港に行ったが、「最後の世代」の活動家たちが飛行機の滑走路に接近し、飛行を妨害したため、多くのフライトがキャンセルされた。それを知った旅行者が「一年前から計画していた家族旅行なのに、これで全てのプランがダメになった」と怒る旅行客の姿がテレビで放映された。「最後の世代」への怒り、批判はヒートした。

また、オーストリアで9月29日、連邦議会選挙が実施されるが、「最後の世代」の過激な活動に対する国民の反発が「緑の党」への批判となって跳ね返ってくることを恐れ、「緑の党」は「最後の世代」に対して活動終了への圧力をかけたのではないか。

「最後の世代」は「我々の活動はもう成功の見込みはない。政府はこの2年間、完全な無能さを見せつけた。国民の一部は化石燃料の延命を選んだ。社会は失敗したのだ。それが私たちを非常に悲しませた。私たちは、新たなものが生まれるために場所を空ける。本日をもって、私たちは抗議活動を終了する。残りの資金は、犯罪化や捜査にかかる費用を賄うために使用する。依然として多額の罰金や訴訟費用が未解決だからだ。われわれと共に抗議してくれた全ての勇敢な人々に、深い感謝と敬意を表する。私たちは怒りを持ち続ける。そして抵抗は続けていく」と述べている。

環境保護は人類の課題だ。経済活動と環境保護の調和が求められる。「最後の世代」が過激な活動に走った結果、多くの国民を敵に回してしまったのは残念だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。