現代の40代は不惑ではなく惑う年頃

黒坂岳央です。

「40代は不惑の年」などと言われる。不惑とは経験や知識によってもはや人生に迷うことがなくなるという意味である。しかし、実際に40歳になるとその言葉が本当に正しいのか疑わしくなる。

仕事は特にトラブルはない。奥さんも子供も元気だ。自分も健康で病気はない。毎日が非常に忙しいがとにかく楽しい。翻って10代、20代の頃はトラブルだらけだったので、我が人生で今が一番うまくいっていると思う。だが、それでも惑い続けていることに気づく。

もしかしたら不惑など永遠に来ず、人は一生迷い続けるのかもしれない。

mikkelwilliam/iStock

選択肢が多すぎる40代

40代は仕事と家庭を頑張れば一人前、というなんとなくのイメージがあった。やるべきことは明確であり、もはや何も迷うことはない。家族を守るために働きまくる。そして自然に不惑の領域にたどり着くものだと思っていた。

しかし、いざ40代になると依然として選択肢は多いままであることに気づく。たとえば仕事、その気になれば今からいろんな新しい仕事を始めることができる。だが、物理的な時間は限られており、毎日忙しくて矢が飛ぶように時間が過ぎていく。何か新しいことをするなら、もはや今やっている既存の仕事を捨てなければ前には進めない。だが今の仕事も別に何も不満はない。このような迷いである。

おそらく、自分のように独立した立場でない会社員も、似たような心境を持つものもいるはずだ。「今の仕事を続けるべきか?一か八か、最後の転職をするべきか?」このように進退を決めかねて悩む人もいるはずだ。今、目の前にあるおぼろげな選択肢たちは5年後、もはやすべて消えていることはわかりきっている。でも今あるものも手放していいのか?このような悩みを持つ人はいるだろう。

また、最も悩ましいのは家庭かもしれない。地方在住の親なら引っ越しを伴う子供の教育を考えない人はいないだろう。すなわち、新天地への引っ越しである。しかし、新しい地でうまくやれるのか?そしてタイミングはいつか?小学校卒業時か?それとも高校進学時でいいのか?いくなら東京か?もしくは福岡や広島といった大きめの地方か?いっそ思い切って海外へ引っ越してみる?引越し先での仕事はどうするか?家は買うのか?賃貸か?考え出すときりがなくなってしまう。

40代は世間で言われているほど意外と体力や気力がないわけでもない。やろうと思えばまだまだ何でもできる。むしろ、知恵と経験と資金がある分、若い頃よりうまくやれることもあるだろう。この選択肢の多さが40代を惑いの年頃にしてしまうのだ。

人は一生悩み続ける生き物

40代が本当に不惑だった時代、生き方はもっとシンプルだったはずだ。すなわち、現代のように迷うほど選択肢があるのはある種の贅沢である。「足るを知る」という意味を理解しつつも、人は選択に迷うことをやめられない。

そして不惑は当面やってこないことをおぼろげながら見えてきた。知人の経営者は60代、70代でも迷っている。「出資者になって憧れだったカフェのオーナーになろうと思ってるけど、妻に反対されてる。出店場所や構想について君はどう思う?」みたいに意見を求められることがあって驚かされる。すでに十分お金を持ち、仕事で成功しているのにまだまだ新しいことをやりたくて悩んでいるのだ。

また、親族は「ずっと住んでいた家が古くなって震災が不安。マンションの購入に迷ってる」という。年齢は70歳近くで迷いに迷い、しょっちゅう物件の購入相談に足を運んでいる。

人が迷うことがなくなる時があるとすれば、それは何も欲しくなくなったタイミングかもしれない。そう考えると、選択肢の多さに迷うということは非常に恵まれているといえる。避けられない運命を受け入れるしかなくなった時、「迷いは贅沢品だったのだな」としみじみと噛みしめるのだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。