「トランプが福島原発事故で3000年は戻れないと言いイーロンマスクが反論」
8月14日にアメリカ大統領候補のドナルド・トランプ氏がX社のイーロン・マスク氏とのネット対談において「福島原発事故で3000年は戻れない(と言われている)」と言ったためイーロンマスクが反論した、という記事が出回りました。
しかしこの報道、対談の文脈を踏まえておらず、一面的な理解しか報じていません。
トランプ・イーロン対談の元音声・トランスクリプト:原発のブランディングの文脈
トランプ側の音声はこちら。
文脈が重要で、5つの核兵器保有国の話から原子力発電政策の話に移った際に”nuclear=核”という言葉が核兵器を連想させるため、名前を変える必要がある、ブランディングの問題がある、という話が先に来ていました。
その上でトランプ氏の実際の発言は”where they say you won’t be able to go on the land for about 3000 years”=福島には3000年は立ち入れないと言われている」であり、トランプ本人の意思としてそう思っていると理解するには留保が必要なもの。
直後に”did you ever see that?”=君はそれを見たことがあるか?と言っており、自身の見解を述べているとすれば普通は言わない発言をしています。
さらに、トランプ氏は福島(とロシア)が「そのように言われている」と言った直後に”it’s pretty bad”=これは非常に良くないことだ、と言っていますが、ここでの「これ」は、「そう巷で言われていること」を指すと解され、「福島がそのような実態である」という事を指すものと断定的に解釈することは困難があります。
トランプの電力制作のスタンスは「反・反化石燃料」であり、AIで電力需要が今の倍になるから化石燃料も原発も増やせという立場。*1*2*3
そんな人間が福島に関して不安を煽る内容を言っているのだとしたら自身が推進する原発に対する風評被害なわけで、まさに逆ブランディングになる。
そのため、トランプ氏の発言については前述のような解釈をするのが穏当な理解、ということになります。
なお、イーロンが福島に滞在した事を話した際にトランプが「でも、最近、君の調子が良くないから心配だ」と発言したことは事実ですが、直後に“I’m only kidding=冗談だ“と言っています。
以下に一応のトランスクリプトを置いておきます。
FULL TRANSCRIPT: Elon Musk Interviews Donald Trump – The Singju Post
DONALD TRUMP: Maybe they’ll have to change the name — the name is the rough name. There are some areas like that, like when you see what happened in Japan, the brand that we have to give it a good name, we’ll name it after you or something, you know. No, it has a branding problem.
You know, when you see what happened, you have a branding problem. When you see what happened in Japan, where they say you won’t be able to go on the land for about 3000 years, did you ever see that? And in Russia, where they had the problem with a, you know, there’s a lot of bad things happened and they have a problem. And they say that in 2000 years, people will start to occupy the land again.
DONALD TRUMP: You know, you realize it’s pretty bad,
ELON MUSK: But it’s actually not that bad. So like after Fukushima happened in Japan, like people were asking me in California, you know, are we worried about like a nucleic cloud coming from Japan? I’m like, no, that’s crazy. It’s actually it’s not even dangerous in Fukushima. I actually flew there and ate locally grown vegetables on TV to prove it. And I donated a solar water treatment, solar powered system for a water treatment plant.
DONALD TRUMP: And yeah, but you haven’t been feeling so well lately, and I’m worried about it.
ELON MUSK: No, no, but
DONALD TRUMP: I’m only kidding, you know,
ELON MUSK: It’s like, you know, Hiroshima and Nagasaki were bombed, but now they’re like full cities again. So it’s really not something that, you know, it’s not as scary as people think, basically. But let’s see.
I mean, I mean, there’s some other topics we should touch on, you know, like lawfare. I think, you know, we need to be concerned about
イーロン・マスクは福島の安全性を強調:「トランプに反論」は正しい
とはいえ、イーロン・マスク氏の理解として「トランプ氏は福島の実情について本心で語っているのでは?」という可能性を考えることはやむを得ないと言えます。
イーロン・マスク氏は「実際には、福島では危険ですらない。それを証明するために、実際に現地に飛んでテレビの前で地元産の野菜を食べたんだ。そして、水処理施設の太陽光発電システムを寄付したんだよ」「広島と長崎は原爆で破壊されたけど、今はまた完全な都市になっている。だから、みんなが思っているほど怖いことではないんだ」と説明していますが、ここでトランプ氏とすれ違いが発生していると考えられます。
マスク氏の立場になって考えてみると、トランプ氏の発言はリアルタイムでは本心がどこにあるのか不明なものであり、打消しの反論をしたという叙述の仕方は正しいと言えます。
本来はトランプ氏の発言は(質の悪い)冗談であったり、他者の荒唐無稽な発言への皮肉と理解すべきなのだけれども、実際に会話をしていたら「いきなり変な事を言い出したな?コイツ」という反応になるのも仕方がないと思います。
そして、マスク氏はすぐに話題を変えましたが、内心はヒヤヒヤしてたんでしょう。「一連の発言は十中八九冗談だろうけど明確化しようとすると墓穴を掘る危険があるからお茶を濁そう」と考えていた節がある、不自然な話題変更でした。
トランプ氏が話した事は不用意だし不快に思うのも当然ですが、実際の発言を改変して報じるという無理やり貶める動きが現実にあります。*4*5その流れに乗っかって客観的な理解から遠い解釈を標準にすることには賛同できません。
*1:トランプの公約①:アメリカの光熱費を世界一安くする | キヤノングローバル戦略研究所
*2:https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/pdf/company/publicity/2017/171215_takiguchi_12.pdf
*3:https://x.com/tsarnick/status/1817301830139064626
*4:共同通信は『「3千年は土地に戻れない」と軽口をたたいた。』と記事本文で書いている⇒https://archive.md/P5Dmw
*5:読売新聞は同様の事をタイトルでのみ行っている⇒https://x.com/Nathankirinoha/status/1823589800592769232
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。