日本の直接投資収益について、統計データを基に可視化してみます。貿易による収益から、投資による収益へと構造が変化しているようです。
1. 日本の直接投資収益のバランス
前回は、日本の国際収支から、経常収支や第一次所得収支、直接投資収益についてご紹介しました。
日本は輸出と輸入が拮抗していて、純輸出(貿易収支)はほぼゼロです。
一方で、海外からの財産所得である第一次所得収支は大幅なプラスで、経常収支の増加に大きく寄与しています。
第一次所得収支のうち、証券投資収益は一定範囲でアップダウンが続いていますが、直接投資収益は右肩上がりに増加しています。
この直接投資収益は、対外直接投資による海外からの所得(受取)と対内直接投資による海外への所得(支払)の正味(ネット)の数値となっています。
日本は対外直接投資はそれなりの規模ですが、対内直接投資が極端に少ない特徴がありますので、直接投資による所得も受取が超過している事になりますね。
その差引の金額が、直接投資収益という事になります。
今回は、OECDの統計データから、直接投資による支払いと受取りのバランスについて確認してみましょう。
ここでは、対外直接投資によって受け取る所得を対外直接投資所得(Foreign Direct Investment Income:Outward)、対内直接投資によって支払う所得を対内直接投資所得(Foreign Direct Investment Income: Inward)と呼びます。
対内直接投資所得は支払い側となりますので、マイナスの所得という事になります。
図1が日本の直接投資収益について、対内直接投資所得(支払、マイナス側)と対外直接投資所得(受取、プラス側)の推移を示したものです。その差引が直接投資収益(黒線)です。
対外直接投資所得も対内直接投資所得も拡大傾向ではありますが、対外直接投資所得の方が圧倒的に多く、差引の直接投資収益も拡大傾向であることが確認できます。
2022年の数値では、対外直接投資所得が2,061億ドル、対内直接投資所得が353ドルで、約6倍の差があります。
2. 日本の直接投資所得の収支バランス
日本は対外直接投資と対内直接投資のバランスでみると、大きく対外直接投資に偏っているのが特徴です。
他の先進国は概ね50~150%と双方向的ですが、日本は1割程度です。
直接投資からの所得も、やはり対外直接投資が圧倒的に多い事が確認できました。
念のため、このバランスの推移についても確認してみましょう。
図2が2005年からの時系列での対外直接投資所得に対する対内直接投資所得の比率です。
日本はアップダウンがありながらも、15~33%程度で推移している事になります。
対内直接投資所得が3分の1~7分の1程度という事になります。
この比率の国際比較については、後日ご紹介します。
3. 日本の直接投資収益の検証
日本の統計データで公表されているのは、差引された直接投資収益です。
OECDの統計データで計算した数値が、日本の統計データと合致するのかも念のため確認してみましょう。
図1のドル換算した直接投資収益と、財務省 国際収支データの直接投資収益を為替レート(年平均)でドル換算した数値を重ね合わせたのが図3です。
2013年以前ではやや乖離もありますが、ほぼ一致している事が確認できますね。特に2014年以降ではほぼ完全に一致します。
直接投資収益とは、対外直接投資からの受取りと対内直接投資による支払いの差引である事は間違いないようです。
4. 日本の直接投資収益の特徴
今回は、OECDの統計データから、対外直接投資による受取りと対内直接投資による支払いの差引としての直接投資収益について確認してみました。
対外直接投資所得は増加傾向が続いていて、直接投資収益も拡大傾向です。
直接投資収益は2022年には約20兆円に達します。
証券投資収益なども含めた第一次所得収支では35兆円ですが、その6割以上を占める事になります。
輸出と輸入が拮抗しているので、経常収支≒第一次所得収支となっている中で、その多くを直接投資収益が占めているという事ですね。
他国との貿易で外貨を稼ぐという形から、海外への投資を通じて日本に還流させるという関係性へと変化している様子が良くわかります。
ただし、直接投資収益のうち約半分は海外への再投資となっていて、海外子会社に留保される分となっています。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。