発達障害の特性を仕事に活かす方法

Iryna Spodarenko/iStock

「得意を伸ばし、不得意をリカバリーする」

ADHDやASDといった発達障害を持つ人は仕事をしていく上で、さまざまな困難を抱えます。ほとんどの人が努力をすればすぐに改善できそうなことですが、発達障害の人にはどうしても難しいのです。

発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術」(中村郁/かんき出版)

[本書の評価]★★★★(80点)

【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★  「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★   「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★    「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満

実は仕事の役に立つ発達障害

好きなことならとことん没頭する。これは発達障害の一つの特性です。中村さんも何かを好きになると徹底的に追いかける癖があるそうです。

「私は若い頃、サッカーが大好きでした。関西のJリーグチームの試合は時間が許す限り見に行き、休みの日には練習場にまでかけつけていました。サッカーに関する仕事がしたいと毎日願い、周りにも言いふらしていた結果、ある日、大好きなチームの選手とのトークショーの仕事が舞い込んできました」(中村さん)

「しかし、私は臨機応変に対応することが非常に苦手でした。一人粛々とマイク前で読むナレーションとは違い、司会やトークなどの仕事は不得手です。当日、私の司会はグダグダ。トークも決してうまくいったとは言えませんでしたが、イベントは盛り上がり成功しました。成功したのは、ゲストの選手のお陰でした」(同)

不器用な中村さんを見て、選手がその場を仕切ってくれたのです。プロの司会としては失敗ですが、仕事としたと中村さんは言います。

「サッカーやチームに対する私の熱い気持ちが、彼にしっかりと伝わっていたからです。だからこそ、手助けしてくれたのです。私のマニアックさが仕事の役に立った瞬間です。あなたも何か好きなものはありますか?あるのなら、とことんのめり込んで没頭して発達障害の支援施設の人から聞いた、こんなお話があります」(中村さん)

「ある発達障害の方から『親にゲームを禁止されている』と相談を受けたので、ゲームを楽しむように伝えました。すると、ゲームを通してパソコンを使いこなしプログラミングができるまでになります。『好き』を追いかけることでエネルギーが注ぎこまれます。マニアックなあなたの知識は、ときに誰かの役に立つのです」(中村さん)

実は普通がむずかしいという話

中村さんは幼いころより体が弱く、癇癪や、過剰に集中し過ぎてしまう「過集中」、さらには物忘れがひどく大変な毎日を送ってきたそうです。大学受験では過集中がプラスに働き、偏差値40を70まで上げて志望大学(同志社大)に合格するも、入学後は華やかな学生たちに馴染めませんでした。

ところが、「過集中」がプラスに働いて、「声の世界」へはいることになります。ナレーターの道を勧められ、大学卒業と同時に現在の事務所に所属しました。ナレーターには高い集中力が必要とされますが、短所を長所として活かしながら活躍している点が興味深いところです。

発達障害を持つ人は、集中力を発揮したり、記憶したりといった、ほかの人にはない得意な能力も兼ね備えていることが多いのです。環境を調整し、上手に工夫して、苦手な部分を補うことができれば、その力をいかんなく発揮し、素晴らしい成果も残せます。

本書では、中村さんが数々のライフハックを公開しています。発達障害を持つ人たちが、周りとトラブルを起こすことなく、ミスを少なく仕事して、ストレスがたまらず、成果を出せる方法をこの機会に学びましょう。

尾藤克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)