インテルといえば90年代、半導体で世界のトップにのし上がり「泣く子も黙るインテル」とされました。そのインテル、今はその栄光ははるかかなたの思い出話であり、「インテルよ、もう一度」と期待しているのはバイデン大統領だけではないか、という気がします。
バイデン大統領はインテルが供給する半導体がアメリカ国防の要になるとみて、CHIPS法なるものを導入し、補助金85億ドル、融資110億ドルをインテル社に提供するパッケージを用意しているのですが、インテル側がこの受給条件を満たせないのです。まるでパン食い競争でパンにかじりつけないインテルをイメージしていただければよいかと思います。
なぜ、インテルは輝きを失ったのか、個人的には半導体の世界の潮流が変わったからではないかとみています。インテルがブイブイ言わせたときは半導体設計⇒製造⇒販売/メンテがワンパッケージでした。専門的には「垂直統合型デバイスメーカー」と言います。ところが半導体の性能が大きく進化し、製造コストも飛躍的に増加し、IT化が進み、最終製品が目指すものがパソコンの半導体といった時代からまるで変わり、目的に応じたカスタマイズをする必要が出てきました。そこで「出来合い」を買うスタイルから各社自前設計のカスタムメードという発想が出てきたのです。またアーム社の登場は特にスマホ関係の設計において圧倒的強みを見せます。アップルの自前設計=アーム社の採用への方針転換はインテル社にとって衝撃的な変化となります。
では設計を諦めて製造だけならどうかといってもAMDという強力なライバルとの戦いに負け、TSMCなどファウンドリ(Foundry)と称する受託製造会社が主流となり、日本でもラピダスが2025年稼働を目指しています。
こう見るとインテルは時代の流れに乗りそこなった、そして90年代の栄光というプライドが邪魔をしたことで「インテルの陽は昇らず」の状態になってしまったのです。半導体のように金食い虫の業界ではいったんペースが落ちると元に戻すのが厳しくなります。インテル社の長短借入金の合計は2018年には260億ドル程度だったものが現在は2倍の500億ドルを超す状況になり、フリーキャッシュフローは21年第4四半期からほぼ出血が止まらない状態にあります。挙句の果てにダウ採用銘柄からの陥落が見込まれています。これはダウ採用のルール上の理由ですが、逆風が止まらないといえるでしょう。
次にフォルクスワーゲンで何が起きたのか、です。報道の通り、同社のドイツ国内の工場の一部を閉鎖する案が経営陣から打ち出されました。これに対して労働組合や州、国も交えた泥仕合と化しており収拾がつかない状態にあります。経営陣のメッセージは非常にクリアで「このままではVWはやっていけない」であります。
何が同社を狂わせたのでしょうか?基本的には欧州自動車産業の酷い状況、これに尽きると思います。コロナ前に比べ欧州全体では2割ほど需要が足りません。ご承知の通り欧州製の自動車は価格が高いのですが、それを高級だからといって買うのは日本人であって、実態としては日本製と同じものが3割から5割も高いコストをかけないと作れないといった方が正しい気がします。
そこで起死回生の一発がEV化であったはずです。もともと環境問題に敏感な欧州ではVW社の排ガス不正問題からスタートしてEVが政治主導で席巻したもののここに来て本格的な調整局面に入ってしまいました。ボルボ社はかつていち早く30年までにオールEV化宣言をしていたのについに撤回したぐらいです。更に中国製の安価なEVが市場を混乱させ、EUはようやく中国製EVに対する関税率を大幅に引き上げる措置を行うところです。
ところがその前にVW社の体力が失われてきた、こう見るのが正解でしょう。特にEVの時代が確実に来ると見込んでいた多くの関連産業界にとって需要側(顧客)が買わないことで当てが外れました。フォルクスワーゲン社はポルシェやランボルギーニなど高級ブランドを傘下に持つ一方、同社の車は大衆車製造に特化しています。ところが同社の車は全般的にデザイン性に欠け、例えば北米では苦戦の連続でアメリカ市場などへは過去何度もテコ入れを図っていますが、うまくいきません。
インテル、フォルクスワーゲンは確かにそれぞれの業界で大帝国を築いた実績があります。ただ、それらは昔の話であり、栄華はなかなか続かないのです。それを栄枯盛衰という言葉で切り捨てるにはあまりにも単純すぎでその奥底の理由を探る必要があると思います。
アメリカでUSスチールが日本製鉄による買収がなされないならば大量のレイオフや本社移転を含めたリスクがあると同社経営陣が述べています。トランプ氏もバイデン氏もハリス氏もUSスチールを守るといいながらそれは黄昏に対する哀愁であり、その3人にとってUSスチールのような小さい会社の存亡はどちらでもよいはずですが、後ろにつく労働組合の票が欲しいがゆえに心にもないことでも平気で口にするわけです。これが逆に企業の生命力を悪化させるとも言えるのです。
ちなみにUSスチール買収に興味を持っていたクリーブランド クリフス社はカナダの大手ライバルStelcoの買収を行い、その承認の株主総会が9月16日に行われます。とすればクリーブランドは資金的にUSスチールには手が廻らないとみています。つまりUSスチールは取り残されるのです、大統領達の政治活動のせいで。
倒産や被買収は企業が自立できなくなった際の当然のあるべき姿であり、倒産ではなく、買収されるならば新しい資本が入り従業員にとってプラスのはずなのです。これを大統領や大統領候補になろう人が全然わかっていないのです。バイデン氏がCHIPS法を通じてインテルをそこまでして救おうとすること自体が自助と淘汰の世界に余計な力をかけ、経営の自立性を崩すのであります。
今日のタイトル、「インテルとフォルクスワーゲン、何を間違えたか」、私の答えはずばり、政府が手を差し伸べたあるいは政府が主導して何かをしようとしたことが概ね外したということではないかと思います。企業は野性味をもって野に放つ、そこで筋力をつけ、体力をつけ、成長するものなのに政府が檻に閉じ込め、餌をやり飼育計画を作ることでダメにしていると私は強く申し上げたいと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月6日の記事より転載させていただきました。