「中国アフリカ協力フォーラム」とロシア「東方経済フォーラム」に見る外交攻勢

篠田 英朗

左:習近平国家主席 右:プーチン大統領

9月5・6日、中国の北京で「中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」が開催された。ロシアのウラジオストクでは、9月3~6日の日程で「東方経済フォーラム(EEF)」が開催された。

二つの国際フォーラムは、別の目的・対象・性質を持って、別個に行われたものだ。しかし時期が重なったことによって、中国とロシアの活発な多国間外交が印象づけられる格好となった。

「FOCAC」には全てのアフリカ諸国の参加があり、ほとんどが国家元首か、そうでなくても政府首脳の出席であった。アフリカ大陸外で、あるいはAU(アフリカ連合)サミットなどの特別な機会を除き、これだけのアフリカ諸国の国家元首・政府首脳が一堂に会するのは、極めて珍しいことであり、圧巻であった。

3年に1度、中国とアフリカと交代で、首脳会議を開催するので、6年に1度の北京でのイベントだということもある。それにしてもアフリカ諸国にここまでの吸引力を誇れる国は、中国以外には、存在しないだろう。

ロシアで開催された「EEF」には、マレーシアのアンワル首相や韓正国家副主席など、政府首脳・高官や企業関係者600人が、76カ国から集まったという。極東地域の経済協力に特化したフォーラムとしての位置づけである。ただし、もちろんロシアに対して「制裁」を発動している日本などからは参加していない。

二つの全く異なるフォーラムで、参加者も異なっているが、米国及びその同盟諸国を除外した国際フォーラムである点は、一致している。

折しも、プーチン大統領のモンゴル訪問が、ICC加盟国としての義務に反しているということで、国際的なニュースになったばかりの時期だ。ロシアに「制裁」を科している米国及びその同盟諸国を、逆にロシアや中国が、囲い込むようにして国際フォーラムを開催している流れとなっている。

米国の同盟諸国は、「G7」や「OECD」を中心にした経済フォーラムを持っているが、すそ野の広さという点では、停滞気味だ。

ウクライナ外務省は、プーチン大統領の訪問後、モンゴルは「戦争犯罪の責任を共有してしまっている」と糾弾し、「私たちは、パートナーたちと共にウランバートルに結果が生じるように活動していく」と述べた。

しかし、ウクライナ政府の宣言にもかかわらず、今のところモンゴルに対して制裁のような措置をとろうとするような国が出てきたという話は聞かない。それどころかまだ表立った批判すら出てきていない状態だ。

すでに私が数日前に書いたように、そんなことをしている余裕は、欧米諸国側は持っていないのが実情だろう。ウクライナが、自らの怒りのままに自由自在に欧米諸国を動かせるような状況ではない。

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もともとわれわれが「制裁」と呼んでいる措置は、国際法の用語法にしたがった正しい意味での「制裁」ではない。国連憲章第41条が定める「経済関係・・・の全部又は一部の中断」は、国連安全保障理事会決議をへた強制措置として国連加盟国に要請されるはずの事柄である。アメリカや日本が、独自の判断で、国内法制に基づいて行う行動は、意図が国際法違反行為の是正を求めることにあるとしても、いわばせいぜい「対抗措置」でしかない。

各国が独自判断で行う「単独制裁」という概念は、国連憲章41条の本来の制裁を模して比喩的に用いているものでしかなく、国際法上の明白な裏付けはない(篠田英朗「単独的な標的制裁の制度論的検討 : 国際立憲主義の観点から見た合法性と正当性」『国際法外交雑誌』第121巻4号、2023年、416-440頁)。

現在、対ロシア制裁に参加しているのは、NATOを構成する北米・欧州のアメリカの同盟諸国と、アジア・オセアニアの日本、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドという、やはりアメリカの同盟諸国だけである。世界の大多数の諸国は、参加していない。アメリカの同盟諸国の経済力が高いため、世界経済のGDPシェアで言えば、半分はあるかもしれない。だがせいぜいその程度だ。

日本のメディアは、対ロシア制裁に「穴」があるといった言い方を好む。しかし、もともと「穴」と言うには大きすぎる。世界を二分した確執が進行中だ、と言ったほうが実態に近いだろう。

米欧諸国が自信を持っていたのは、SWIFT決済体制からロシアを閉め出す金融制裁の威力に期待していたからだ。だがそれも期待していたほどではなく、ロシアはBRICSの中心議題に「脱ドル化」を掲げることに成功し、世界を二分することを狙った金融市場をめぐる闘争を盛り上げている。

もっとも「世界を二分」というのは、「ドルに人民元は取って代わるかどうか」という問いのことではない。ドル(・ユーロ)国際金融体制に、BRICS諸国が目指す「多極化世界」が挑戦をする、ということだ。

2022年2月のロシアのウクライナ全面侵攻以降、米国とその同盟諸国は、ロシアに対する「制裁」にその他の諸国も参加するように呼び掛けてきた。いまだ米国の同盟網をこえた「制裁」参加国はない。

それどころか、呼びかける過程において、次々とロシアとの関係を維持する国々を非難する行動を繰り返してきたため、他の諸国は嫌気気味になってきているのが実情だ。加えてガザ危機をめぐる米欧諸国の二枚舌外交は、他の諸国の不信感を加速度的に高めた。BRICSへの新規加盟を目指す国の数は50カ国に達しているとも言われる。

日本の経済専門家の間では、「ドルは安泰だ」「今後も米欧諸国中心の世界経済が続く」という見通しを語る方が多いように思う。私は経済のことはわからない。いずれにせよ将来の見通しは誰にとっても難しいだろう。ただ、それにもかかわらず、現在進行形の熾烈な国際的な闘争から目を背けることだけは、誰にとっても難しいように思える。

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