自民総裁選「政治とカネ」から逃げる候補者達:「裏金議員」に何を説明させるべきか

岸田首相が自民党総裁選への不出馬を表明したことを受け、10人を超える議員が出馬の意向を示していた自民党総裁選が9月12日に告示され、9人が立候補の届出を行った。

岸田首相の不出馬の最大の原因となったのが「派閥政治資金パーティー裏金問題」であり、この「政治とカネ」の問題への対応が国民から全く評価されず、政権が信頼を失ったからこそ、再選を断念せざるを得なかったのである。

その直後に解散総選挙が行われることが予想される今回の総裁選では、「裏金問題」への対応に関して、岸田首相との違いをアピールできる対策の「競争」になるのが当然だろうと思われた。

しかし、9人の候補者がそれぞれ出馬会見を行い、「政策」については立派なことを言っている一方で、「政治とカネ」問題について、国民が納得し信頼が回復できるような対応方針を示した候補者は一人もいなかった(【自民党総裁選出馬会見、「政治とカネ」問題で「抜本改革」を打ち出せない小林・河野、他の候補者は?】【高市氏出馬会見、党紀委処分で裏金議員「非公認」を否定、「『ちゃぶ台返し』はできない」に重大な疑問】)。

総裁選の投票権を持つ自民党所属議員の中に、派閥から裏金を受け取っていた「裏金議員」が80人以上含まれ、その支持を受けられるかどうかが、とりわけ決選投票の当落のカギを握ることになるため、「裏金議員」の反発を招くような対応方針は打ち出せない、というのが最大の理由であろう。

自民党の新総裁に就任すれば、総選挙で国民に信を問うことになるが、まずは、議員票を獲得して総裁選に勝利しなければ、総裁として総選挙に臨むこともできない。総選挙のことは、総裁選で勝ってから考えればよいということだろう。つまり、総裁選が「一次試験」、それを突破しなければ「二次試験」に臨むことができない、ということか。

しかし、国民の側からすると、今回の総裁選は、総選挙で国民の信を問う総裁を選ぶ選挙であり、岸田首相不出馬の原因となった「政治とカネ」問題に対して、国民が納得し、支持するような対応を打ち出すことの競争を行うことが、衆院選に向けての「一次試験」であり、その点を曖昧にしたまま総裁選を勝ち抜いて新首相に就任しても、自民党に対する信頼が回復しない以上、「二次試験」の総選挙での「落第」は必至のはずである。

高市早苗氏は、「自民党で処分が決まっている。非公認を含めて党内で積み重ねてきた議論を、総裁が代わったからと言ってちゃぶ台返しをしたら独裁」などと言って、裏金議員への対応を見直す余地は全くないと断言したが、それ以外の総裁選候補者の多くは、「不記載議員には説明責任を果たさせる」或いは「説明責任を尽くしたかどうか見極める」ということを述べた。

問題は、その「説明責任」の中身である。

今回の「裏金問題」で、なぜ国民が強烈に反発し、怒ったのか、それは、自民党の多くの議員が、政治資金として収支報告書で公開もしない「裏金」を得ていたことが発覚したのに、刑事処罰を受けないどころか、納税すらしないで済まされていることに対する納税者としての強い憤りである。

政治資金として公開しない「裏金」というのは、個人が自由に使える、ということであり、一般の国民がそのようなお金を得ていたことがわかれば、間違いなく所得税の納税をさせられる。場合によっては、追徴税、重加算税まで課せられる。

ところが、「裏金議員」は、「政治資金の収支報告書への不記載に過ぎなかった」と弁解して収支報告書を訂正し、何のお咎めもなし、ということになっている。そのことに国民は怒っているのである。SNS上に「裏金議員」に関して「脱税」「泥棒」などという言葉が飛び交っているのもそのためである。

岸田首相は、「検察が法と証拠に基づいて厳正に捜査処分を行った」と強調するが、その検察の処分にも多くの国民が疑念を持っている。私も、現在の「裏金事件」をめぐる混乱の最大の原因が検察の誤った捜査・処分であることを再三指摘してきた(【「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因!】)。

そのような現状において、国民の納得を得るために、自民党総裁として、「裏金議員」に求めるべき説明というのは、どういうものなのか。

重要な点は、「①なぜ、どのような認識で収支報告書に記載しない金を受け取ったのか」「②それをどのように管理していたのか」「③どのような用途に使ったのか」「④未使用金はどうしようと思っていたのか」である。

① は、そもそも、政治活動に関して「収支報告書に記載不要の金」というのは、あり得ないはずである。それを議員側が受け取った際にどのように認識していたのか、というのは「裏金問題」の核心である。そして、管理状況、使途、未使用金の使用予定は、それが、どの政治団体、或いは政治家個人に帰属する資金であったのかを判断する重要なポイントとなる。

それらの説明の結果、「政治家個人に帰属する政治資金の寄附」と判断されれば、そもそも違法寄附となる可能性がある上に、所属議員の個人所得となり、所得税の納税の義務も生じることになる。

本来、自民党の党紀委員会での処分に当たって、これらの点について個別にヒアリングをして、事実確認を行うことが不可欠だったはずだが、それが十分に行われたようには思えない。

だからこそ、総裁選で新総裁が選出されたら、まず、その点について個々の「裏金議員」に説明を求めることが必要だ。その結果、政治団体に帰属する資金であることについて納得できる説明が行われた議員については、その説明内容を国民に示すことで、その議員についての党紀委員会の処分が正当であったことが確認されたことになる。

一方、①~④の説明の結果、政治家個人宛の政治資金の寄附だと判断せざるを得ない場合には、少なくとも、当該議員に所得税の修正申告・納税を行うよう求めることが必要になる(違法寄附を受けたことについての告発も検討の余地はあるが、検察が刑事処分済であるので実際上は処罰は困難であろう)。

このようにして新総裁が、国民が裏金議員の「不処罰」「不納税」に対する疑問・不満に向き合い、裏金議員に対する説明を求め、事実関係を明らかにすることができれば、岸田首相不出馬を受けての自民党総裁選は「裏金問題」で失った自民党の信頼回復のために大きく貢献することになる。

このような説明を求めることをせず、自民党としての事実解明のレベルが、党紀委員会の処分の前提事実と何も変わらないということであれば、今回の総裁選は、国民にとって「一体なんだったのか」ということになる。

その場合、国民は、来る総選挙で、自民党に「解党的出直し」を迫るほどの「惨敗」という選挙結果を突きつけるしかない。

「新しい総裁」による刷新感で「政治とカネ」問題をごまかそうというのが、自民党議員の魂胆のようだ。そのようなことでごまかされるほど、国民は馬鹿ではない。