9月18日、国連総会は、124カ国の賛成(14カ国が反対、43カ国が棄権)を得て、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの「違法な存在」を12カ月以内に終了させることを要請する決議を採択した。7月19日の国際司法裁判所(ICJ)勧告的意見の内容にそった決議だ。
ICJ勧告的意見や国連総会決議に法的拘束力はないとされるが、圧倒的多数で採択された総会決議の道義的重要性は大きい。
非常に重要なので、この決議A/ES-10/L.31/Rev.1「被占領東エルサレム及びその他のパレスチナ被占領地における違法なイスラエルの行為(Illegal Israeli actions in Occupied East Jerusalem and the rest of the Occupied Palestinian Territory)」(以下「同決議」)の要点を確認しておきたい。
「同決議」は、まずICJ勧告的意見の内容を参照する。イスラエルによるパレスチナ被占領地における占領政策及びその結果に関する法的見解を求められたICJは、おおむね以下のように答えていた。
- イスラエルのパレスチナ被占領地における継続的存在(continued presence)は違法である
- イスラエルは可及的速やかにその違法な存在(unlawful presence)を終了させる義務を負っている
- イスラエルは速やかに入植活動を停止して入植者を撤収させる義務を負っている
- イスラエルは損害を受けた自然人・法人に対して賠償をする義務を負っている
- 全ての諸国は、イスラエルの違法な存在によって生じた状況を承認せず、その状況を維持するための支援をしない義務を負っている
- 国連を含む国際機関も、イスラエルの違法な存在によって生じた状況を承認しない義務を負っている
- 国連総会及び安全保障理事会は、イスラエルの違法な存在を可及的速やかに終了させるための方策を検討すべきである
このICJの勧告的意見にそって、総会決議は以下の諸点を確認した。
- イスラエルの西岸及び東エルサレムにおける入植活動は、国際法に反している
- イスラエルの政策実行は、大部分のパレスチナ被占領地の併合に等しい
- イスラエルが被占領地に主権を獲得する行為は、国連憲章違反である
- イスラエルのパレスチナ被占領地における政策実行は、国際人道法・国際人権法に反している
- イスラエルの西岸・東エルサレムにおける隔離政策は、人種差別撤廃条約に違反している
- パレスチナ人民は、国連憲章にしたがって自決権を持っている
- イスラエルの一連の政策は、パレスチナ人民の一体性を壊し、天然資源に対する恒久主権を破り、自決権を継続的に否定している。
- パレスチナ人民の自決権は、占領者が強いる条件に服することはない
- イスラエルはパレスチナ被占領地において主権を持たず、イスラエルの安全保障上の懸念が武力による領土獲得の禁止の原則を凌駕することはない
- イスラエルの武力による領土獲得と自決権の否定は、イスラエルのパレスチナ被占領地における存在が違法であることを示している
- イスラエルは、可及的速やかにパレスチナ被占領地における違法な存在を終了させなければならない
こうして「同決議」は、法の支配に依拠した国際秩序の重要性、その維持のためのICJの重要性を確認し、イスラエルのパレスチナ被占領地における「違法な存在」の終了を求めた。そして、パレスチナ被占領地の領土的一体性が尊重されなければならず、ガザ地区の領土的・人口動態的な変更の試みがなされてはならないことを強調した。
また「同決議」は、イスラエルが破った国際法原則には「対世的(erga omnes)」とされる性格があるため、全ての諸国はイスラエルの占領政策に協力しない義務を負っていることを確認した。
「同決議」は、イスラエルの12カ月以内の「違法な存在の終了」を求めたが、より具体的には、それは以下の点を含む。
- イスラエル軍全てのパレスチナ被占領地からの撤退
- イスラエルによる違法な政策実行の終了
- イスラエルが接収した動産・不動産の返還
- イスエラルによる全てのパレスチナ避難民の元々の居住地への帰還
- イスラエルによる全ての自然人・法人が受けた損害に対する賠償
- イスラエルによるジェノサイド条約を含む全ての国際法規の遵守
- イスラエルによるパレスチナ人民の自決権行使の尊重
「同決議」は、さらに全ての諸国に対して、以下の要請を出した。
- パレスチナ人民の自決権行使の促進
- パレスチナ被占領地におけるイスラエルの違法な存在から生じた状況の不承認
- そのような状況の維持への不支援
- パレスチナ被占領地の物理的な性格、人口構成、制度的構造・地位に対する変更の不承認(パレスチナ被占領地におけるイスラエルの違法な存在に関わる条約、経済・貿易関係、外交関係を忌避し、違法な存在を支援する貿易・投資を防ぐ)
- 国際人道法の遵守
- 人種差別撤廃条約違反行為を終了させるための努力
- 自国民がイスラエルの違法な存在の維持に加担しないようにする方策
- 入植活動を通じて生産された製品の受領及び武器の提供の回避
- 違法な存在に関わる自然人・法人に対する移動制限や資産凍結などの制裁
- 全ての犠牲者に対する説明責任への支援
さらに「同決議」は、犯罪行為の捜査だけでなく、損害賠償を果たすための国際的なメカニズムの設置や、国際人道法を構成するジュネーブ諸条約に基づく国際会議の開催も呼びかけた。
付記になるが、この決議において一貫して「違法な存在」という言葉が使われているのは、ICJ勧告的意見を踏襲してのことである。「占領」は、正当な自衛権行使の結果として生まれた場合、必ずしも違法とは言えない可能性がある。しかしイスラエルの長期に渡る事実上の武力による併合である「占領」行為が違法であることが、ICJ勧告的意見で確認された。そのためこの総会決議でも「違法な存在」という概念が用いられている。
どのような説明がなされようとも、安全保障上の懸念があるといったことが言われたとしても、イスラエルのパレスチナ被占領地における存在は違法だ、という趣旨である。
なおこの決議に対して、日本は賛成票を投じた。同じ東アジアのアメリカの同盟国である韓国が棄権に回ったことを考えると、評価できる行動だろう。ただし「法の支配」を尊重する日本の姿勢の一貫性を見せるためには、最低限に必要不可欠な事柄であったとも言える。
折しもレバノンにおける(イスラエルによる)無差別的な爆破攻撃に、日本製の無線機が使われた。今後の中東での日本製品の売り上げに影響しないとも限らない事件である。現在の中東情勢で、あるいは国際情勢全般で、イスラエルにおもねる姿勢を見せて、外交的利益になることは何もない。
過去一年にわたって、私は、たとえばASEANの雄であるインドネシアやマレーシアといった国々と、ガザ情勢を心配していることだけでも表明できないか、といったことを言い続けてきた。ただ日本では,非主流派的な主張であり、反応をもらったことがない。
篠田は偉そうなことを言っていないで、今回の総会決議で賛成に回ったところくらいで、深く深く深く大満足しておくべきだ、と言われるのかもしれない。
しかし世界の大多数の諸国は賛成票を投じているわけなので、ただ賛成しただけで日本が評価されるといったことは、決して起こりそうにない。その点だけは、肝に銘じておきたい。
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