敢えて豊洲で仕入れないという「高級寿司店の戦略」

目黒にある紹介制の寿司店に行く機会がありました。カウンター6席だけの小さなお店で、新規の予約は受け付けず、来店時の予約は半年先という人気店です。その親方に「やっぱり魚は豊洲で仕入れているのですか」と聞いてみると意外な回答が戻ってきました。

こちらのお店は以前は豊洲でも仕入れをしていたのですが、今では豊洲経由のネタは一切ないとのことです。その代わりに漁師さんからの直接仕入れだったり、神奈川の小さな魚市場で仲買人から購入しているとのことでした。

客単価が3万円を超えるような高級寿司店で豊洲で仕入れをしないのはかなり珍しいと思います。

そこには、お店なりの戦略があるのです。

豊洲のまぐろのやま幸といった有名卸になると、日本中の高級店の注文が殺到します。魚の中でもよい部位は高い価格で仕入れてくれるお店や、チェーン店で大量発注を継続的にしてくれるお店が優先されます。

このお店のように質の高いものを少しだけ仕入れたいという場合、有名店や大型チェーン店に比べ後回しにされがちです。また、大きな卸店だとスタッフの数も多く、人間関係を築くのにも時間がかかります。

そこで、規模が小さく競合の少ない地方の市場に仕入れ行くことで、相対的に有利な立場で仕入れが出来るという訳です。

地方の市場と言っても、仕入れている魚のクオリティが必ずしも劣っている訳ではありません。独自のルートを持っている卸とのコネクションができれば、豊洲に引けを取らない良質な仕入れが可能だと言います。

また、競合が少ないことから価格が高騰することも無く、比較的安価に食材を調達できるというのです。

この日の食材も肉厚のボタン海老や脂が乗った大トロ、雑味のまったくないウニなど素晴らしい食材ばかりでした。そして、会計は東京の競合店より3割程度は安く大満足です。

人と同じことをやらない、競合の多いレッドオーシャン市場は避けるといった小さな寿司店ならではの戦略が低価格高品質の人気店の理由なのだと納得しました。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。