自民党総裁選の討論会で、石破茂氏が「法人税を上げる余地がある」と発言したことが話題になっている。
アジア最高の法人税率を上げる余地はあるのか
何を根拠に「上げる余地がある」といっているのかわからないが、日本の法人税の実効税率はアジアでは最高である。
さらに「第2法人税」である社会保険料の事業主負担は、法人税を払っていない6割の赤字法人も負担する。これもOECDで最高水準である。
法人という人はいないので、法人税は最終的に誰かが負担する(これを経済学で租税の帰着という)。短期的には法人税は80%が資本所得に帰着するが、長期的には100%労働者に帰着するというのが経済学の通説である。法人税の高い国から低い国へ資本逃避が起こるからだ。
法人税率を下げると税収が上がる
これを今より上げても、税収は増えない。図3のように法人税率が42%だった1990年度の法人税収は19兆円だったが、2023年度は税率がそのほぼ半分の23.2%になったのに、法人税収は14.6兆円。2010年以降をみると、法人税率が下がった時期に法人税収は上がった。
これは法人税のパラドックスと呼ばれ、税率が下がると税引後利益が増えて配当が増えるので、国内投資が増えて利益(したがって税収)が増える現象は、EUでよく知られている。1980年代以降、EU諸国では法人税率を引き下げたが、税収が上がった。
その最大の原因は、法人税の高い国から低い国に生産拠点を移す資本逃避が起こるからだ。かつては工場を移動するにはコストがかかったが、情報産業では移転は容易である。今はGAFAMのグローバル本社機能の多くは、法人税率12.5%のアイルランドにある。
これをOECDが問題にし、法人税率の下限を15%にする国際カルテルが結ばれたが、これはおかしい。上の図でもわかるように、法人税率を下げれば税収は増えるからだ。
法人税の増税は産業空洞化を促進する
この逆に、法人税率を上げると税収は下がる。それは高収益のグローバル企業が海外に逃げるからだ。たとえば2023年8月期のファーストリテイリングの海外ユニクロ事業の営業利益は約2269億円で、国内の約2倍である。ユニクロの店舗数も海外が1633店で国内の2倍である。
円安で、この傾向に拍車がかかっている。法人税の増税はユニクロのようなグローバル企業の資本逃避を進め、国内の雇用喪失をまねくのだ。法人税は企業の配当前利益に課税する二重課税であり、このような租税回避のゆがみが大きい。
これを巻き戻すことは容易ではないが、政府にできる政策は、法人税をOECDの下限15%まで下げることだ。最終的には法人税は廃止し、キャッシュフローベースの付加価値税(消費税)に統一することが望ましい。内部留保課税(三重課税)なんて論外である。