フランスのバルニエ新内閣が「極右」の黙認で成立した理由

フランスのミシェル・バルニエ首相は土曜日の夜になってようやく閣僚名簿を発表した。左派からは、はぐれガラス的な一本釣りがあっただけで、ほとんど入閣がなく、マクロン大統領派と穏健保守の共和党からなる軽量内閣となり、常に不信任の危険にさらされそうである。

ミシェル・バルニエ首相インスタグラムより

注目の内相ポストには対イスラム・移民強硬派のブルーノ・ルタイヨーが任命された。

ブルーノ・ルタイヨー氏 Wikipediaより

外相のジャン=ノエル・バローはこれまでヨーロッパ担当相でマクロン大統領が外交の主導権を保持するための人事とみられる。国防相はセバスチャン・ルコルニュの留任。

フランスでは、総選挙で左派の新人民戦線NFPが首位、マリーヌ・ルペン党首の極右RNが2位、マクロン派のアンサンブルが3位、旧ドゴール派である共和党が4位で、誰も過半数には遠く及ばないという宙ぶらりん状態になっていた。

首相を任命するのは大統領権限だが、議会はそれを不信任できる制度の下で、新首相を任命できず二ヶ月が経過していたが、ようやく、ブレクジット交渉のEU責任者であったベテラン政治家で、共和党に属するミシェル・バルニエ元外相(RN)を、マクロン大統領が指名して決着が一応ついた。

左派はパリ市幹部のリュシー・カステ(37)の任命が憲政の常道に適っているとして固執しゼネストなど呼びかけたが、極右RNは好意的であるので、なんとか船出できそうなようすだ。

新首相のバルニエは、フランスでより英国で知名度が高いといわれるほどで、ブレクジット交渉を通じてEU各国の意見をまとめながらジョンソン英首相と交渉するという難しい仕事をやり遂げたことでヨーロッパでは絶大な信頼を勝ち得ている。

しかし、極右RNが反対しないのは、ひとつには、バルニエがすべての党派の意見に耳を傾けるという姿勢で、RNへの敵対的態度が控えめであるからだが、それ以上に年齢がゆえである。

前任のアタル首相は35歳で最年少の首相だったが、バルニエは73歳で最年長の首相だ。このことは、2027年に予定される大統領選挙での立候補は可能性が薄く、それがマリーヌ・ルペンにとってもっとも好ましいことなのだ。

それでは政策ではどうかというと、マクロン大統領にとってもっとも大事な、年金改革(RNも左派も反対)を後戻りさせないと思われるし、外交では親EUであることは明かだ(これは左派連合でも半分は同じだ)。

そして、移民とLGBTなどについては、RNも納得できるほど強硬派として知られている。

マクロン大統領インスタグラムより

そんなわけで、今回の構図は、左派連合が極左と言われる「不服従のフランス」や共産党も含めた閣僚による政府に固執し、また、首相候補にもジュリー・カステというかなり過激で福島瑞穂さんチックなパリ市女性幹部を推して、マクロンが打診した社会統計のオランド大統領時代の首相だったカズヌーブの再任にすら同意せず、政権入りができなかったことで、マクロン大統領が極右RNに妥協することを導き出してしまったといえる。

そして、RNは政権から一方的に敵対視されることがなくなり、かつ、いつでも首相を不信任に追い込んで大統領の辞任と大統領選挙前倒しの為に動くことができるフリーハンドを得たわけである。

そんななかで、面白いのは、左派がもっとも難色を新首相に示しているのが、1982年にそれまで刑法犯だった同性愛を合法化したときに、議会で反対票を投じたことなのである。

フランスでは英国などと同じく同性愛行為は刑法の処罰対象だった。ところが、1981年の大統領選挙で勝利したミッテランは、その撤廃を公約に掲げていたので、激しい議論ののち、翌年に法改正がなされた。

そのとき、私はフランスの官僚養成校であるフランス国立行政学院(ENA)に留学中で、ここでのディスカッションでもこの問題が取り上げられ、「日本では同性愛は処罰対象でないがそれで風紀が乱れることはないか」とか、いまでは考えられないような質問を受けて、「刑罰の対象でないからと言って社会に広く蔓延するような実態はない」とか政府の担当者にも実態を詳しく説明などしていたので、もしかすると、法改正に少しえいきょうをあたえたかもしれないくらいだったのだ。

したがって、最年少議員として反対の急先鋒だったバルニエが、反対したとしても不自然でなかったし、そのときに、のちに大統領となったシラクなども一緒に反対していたのだが、それにいまになって、左派からは人権軽視だと行って攻撃対象になっている。

わずか40年前のことだが、ヨーロッパでの価値観の変化はあまりにも急速で、日本もそういう世の中についていくのはたいへんで、ひとつ間違うと人権後進国としてやり玉にあげられかねない畏れもある。

バルニエ内閣の顔ぶれ

  • 法務大臣:ディディエ・ミゴー(左派諸派)
  • 海外領土とのパートナーシップおよび地方分権化大臣:カトリーヌ・ヴォートラン(LR共和党)
  • 内務大臣:ブルーノ・ルタイヨー(LR)
  • 国民教育大臣:アンヌ・ジュネテ(ルネサンス大統領派)
  • ヨーロッパおよび外務大臣:ジャン=ノエル・バロー(MoDem大統領寄り中道派)
  • 文化大臣:ラシダ・ダティ(右派諸派)
  • 国軍・退役軍人(国防)大臣:セバスチャン・ルコルニュ(ルネサンス)
  • 環境移行・エネルギー・気候・リスク予防大臣:アニエス・パニエ・リュナシェ(ルネサンス)
  • 経済財政産業大臣:アントワーヌ・アルマン(ルネサンス)
  • 保健・医療アクセス大臣:ジュヌヴィエーヴ・ダリューセック(MoDem)
  • 女性と男性の間の連帯、自治、平等大臣:ポール・クリストフ(Horizons諸派)
  • 住宅・都市再生大臣:ヴァレリー・レタール(UDI諸派)
  • 農業・食料主権・林業大臣:アニー・ジュネバード(LR)
  • 労働雇用大臣:アストリッド・パノシアン・ブーベ(ルネサンス)
  • スポーツ・青少年・地域生活大臣:ジル・アベラス
  • 高等教育研究大臣:パトリック・ヘッツェル(LR)
  • 公務員大臣、公共活動の簡素化と変革:ギョーム・カスバリアン(ルネサンス)
  • 海外領土担当大臣:フランソワ・ノエル・ビュッフェ(LR)
  • 予算および公会計担当大臣:ローラン・サン・マルタン(ルネサンス)

担当相

  • 欧州担当大臣代表:ベンジャミン・ハダッド(ルネサンス)
  • 国会対策ナタリー・ドウラトル
  • 政府報道官:モード・ブレジョン(ルネサンス)
  • 政府調整担当大臣代表:マリ・クレール・カレール・ジェ
  • 農村、商業、工芸を担当する大臣代表:フランソワーズ・ガテル
  • 運輸担当大臣代表:フランソワ・デュロブレ
  • 海洋水産担当大臣代表:ファブリス・ローアー
  • 日常安全を担当する大臣代表:ニコラス・ダラゴン
  • 学業の成功と職業教育を担当する大臣代表:アレクサンドル・ポルティエ
  • 外国貿易および在外フランス人担当大臣代表:ソフィー・プリマス
  • エネルギー担当大臣代表:オルガ・ジュベルネ
  • 産業担当大臣代表:マルク・フェラチ
  • 社会経済と連帯経済、利益分配と参加を担当:マリー・アニエス・プシエ・ウィズバグ
  • 観光経済担当大臣代表:マリーヌ・フェラーリ
  • 家族と幼児期を担当する大臣代表:アニエス・カナイエ

閣外相

    • 市民権と差別との戦い担当:オスマン・ナスルー(LR)
    • フランス語圏および国際パートナーシップ担当:ターニー・モハメド・ソイリヒ
    • 消費者問題担当:ローレンス・ガルニエ(LR)
    • 女性と男性の平等を担当:サリマ・サー
    • 人工知能およびデジタル技術担当:クララ・チャッパズ


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