主要先進国の労働者、雇用者、個人事業主の推移を可視化してみます。
1. 日本の労働者・雇用者・個人事業主
前回は、日本の労働者数(就業者数、有業者数)と雇用者数、個人事業主数の定義や統計による違いをご紹介しました。
4つの統計データを比較してみましたが、いずれもほぼ一致していて、複数の仕事を兼ねる人のカウント方法で100万人度の差があるという事がわかりました。
今回は、OECDのデータを参照し、主要先進国の労働者数、雇用者数、個人事業主数の推移を眺めていきたいと思います。
特に個人事業主の割合がどのように変化しているかという部分にも注目してみましょう。
まずは、日本のデータからです。
図1が日本の労働者数(Total employment、黒線)、雇用者数(Employees、青)、個人事業主数(Self-employed、赤)の推移です。
労働者数全体に対する個人事業主数の割合を緑線(右軸)で表現しています。
日本の場合は、1990年代から労働者数は横ばい傾向ですが、個人事業主が減り、雇用者が増えているという内訳の変化が進んでいます。
1998年から6,800万人前後で推移しています。
個人事業主の割合は1980年の30.6%から、2022年には11.1%と3分の1近くに減少している事になります。この個人事業主の中には、無給の家族従業者も含まれます。
また、複数の仕事をしている人は、その仕事の数分労働者としてカウントされている事になります。
日本の場合は約100万人程度と推測されます。
2. アメリカの労働者・雇用者・個人事業主
続いて、アメリカのデータを見てみましょう。
図2がアメリカの労働者数、雇用者数、個人事業主数の推移です。
アメリカは人口が増え続けている事もあり、労働者数、雇用者数は右肩上がりで増加しています。
1997年から見ても、2022年で約3,000万人増えていて、1.2倍程度の増加です。
個人事業主数はそれほど変化していないようで、その割合は8%程度から2022年には6.2%へと縮小しています。
アメリカは以前から個人事業主が相対的に少ない特徴がありそうです。
3. ドイツの労働者数・雇用者数・個人事業主数
続いてドイツのデータを見てみましょう。
図3がドイツの労働者数・雇用者数・個人事業主数です。
1990年からのデータしかありませんが、当時からすると労働者数は2割ほど増加しているようです。
特に雇用者数が増えていて、個人事業主数はあまり変化していません。
個人事業主の割合も10%程度から、2022年では8.6%と低下傾向です。
ドイツは人口が停滞傾向でしたが、2011年頃から人口増加に転じていますので、その影響もあるかもしれませんね。
4. フランスの労働者数・雇用者数・個人事業主数
続いてフランスのデータです。
図4がフランスの労働者数・雇用者数・個人事業主数です。
労働者全体としては増加傾向が続いています。
1997年から2022年で2割以上の増加ですね。
個人事業主数に着目すると、2000年代にかけて減少が続いた後、近年ではやや増加しているように見えます。
個人事業主の割合を見ても、2003年頃を底にして、緩やかに上昇傾向となっているのが特徴的です。
減少傾向が続く日本からすると、少し状況が異なるようですね。
5. イギリスの労働者数・雇用者数・個人事業主数
次はイギリスのデータです。
図5がイギリスのデータです。
イギリスも人口が増えている国ですが、労働者数も増加していますね。
1997年から2022年で2割以上の増加です。
個人事業主も増加傾向が続いていて、1990年代以降は個人事業主の割合は13%前後で推移しています。
イギリスは個人事業主が相対的にやや多いようです。
6. カナダの労働者数・雇用者数・個人事業主数
次にカナダのデータです。
図6がカナダの労働者数・雇用者数・個人事業主数です。
カナダは人口が大きく増えている国ですが、労働者数も大きく増加しています。
1997年から2022年で4割以上も増加していますね。
個人事業主も増加傾向が続いていましたが、1990年代以降はあまり増えていないようです。個人事業主の割合も1997年の11.8%から2022年では7.5%と減少しています。
7. イタリアの労働者数・雇用者数・個人事業主数
次にイタリアの労働者数・雇用者数・個人事業主数です。
図7がイタリアの労働者数・雇用者数・個人事業主数です。
他の欧米諸国と比べると、明らかに個人事業主が多い事がわかりますね。
労働者数全体としてはリーマンショック以降やや停滞気味ですが、長期的には増加傾向にあるようです。
主に雇用者数が増えていて、個人事業主は横ばいかやや減少しているようです。
個人事業主の割合は1997年の27.6%に対して、2022年では22.8%と減少してはいますが、他の主要先進国と比較するとかなり大きな割合となります。
イタリアの経済構造が他の主要先進国と少し異なる事が良くわかりますね。
また、労働分配率を計算する際に、雇用者報酬をGDPで割って計算しようとすると、この個人事業主の稼いだ分まで分母のGDPに含まれることになり、イタリアだけ極端に小さな数値となります。
個人事業主の稼いだ付加価値はGDPに加算され、その所得は家計への分配の内雇用者報酬ではなく、混合所得として分配されます。
個人事業主の扱いは、様々なところで雇用者と異なるので、統計を見る際には注意が必要ですね。
8. 韓国の労働者数・雇用者数・個人事業主数
最後に韓国のデータも見てみましょう。
図8が韓国の労働者数・雇用者数・個人事業主数です。
2004年からのデータしかありませんが、労働者数も雇用者数も大きく増加している様子がわかります。
個人事業主数は少し減少傾向のようですが、割合としては2022年でも23.5%を占め、個人事業主の多い状況であることがわかります。
9. 労働者数・雇用者数・個人事業主数の特徴
今回は主要先進国の労働者数・雇用者数・個人事業主数についてご紹介しました。
個人事業主の割合は低下傾向の国が多いようですが、フランスのように近年やや上昇している国もあります。
イタリアや韓国はかなり個人事業主の多い状況という事もわかりました。
その中で、日本は相対的に見ればかなり高い水準から、急激に減少傾向が続き、近年ではイギリスより低く、イタリアと同程度という事になります。
働き方が多様化していると言われますが、むしろ雇用者の割合が強まっている傾向にあるのが大変興味深いですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。