再生可能エネルギーでは電気料金は下がらない --- 尾瀬原 清冽

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需給改善指示実績に見る再生可能エネルギーの価値

ヨーロッパなどでは、再生可能エネルギーの発電が過剰になった時間帯で電力の市場価格がゼロやマイナスになる時間帯が発生しています。

これは市場原理が正常に機能した結果で、電力の価格を下げるために歓迎すべきことではないかという論調も一部に見られますが、はたしてそうでしょうか?

1. 電力広域的運営推進機関(OCCTO)の需給状況改善指示

日本には、北海道電力から沖縄電力まで10の電力会社(一般送配電事業者)があり、基本的には、それぞれ域内の需要と供給のバランスを確保しています。また沖縄電力を除く9社は全て「連係線」と呼ばれる送電線でつながっており、相互に電力を融通できるようになっています。

この融通にはいくつかの種類がありますが、ここでは、突然の気温変化による予想を上回る需要の増加や、発電所のトラブルなどによる供給力の大幅な減少により、計画的に用意していた供給力では需要がまかなえない時に、緊急的に国の組織である「電力広域的運営推進機関(OCCTO)」の「需給状況改善指示」で強制的に余力のある電力会社から応援される融通を見てみます。

こう書くと国の組織が積極的にコントロールしているように見えますが、OCCTOが発電機をコントロールしている訳ではありませんから、実際には各社からあらかじめ応援可能な電力量を出してもらっておいて、応援の申し出があったときに、OCCTOがどこの会社から応援させるか、割り振りをしているだけにすぎません。

余談ですが、この仕組みは電力自由化前のOCCTOが中央給電連絡指令所と呼ばれていたころからやっている仕組みで、自由化前は「随時協調電力の斡旋」と呼んでいたものが、自由化後は「需給状況改善指示」という呼び方に変わっただけで、各電力会社が自主的に行ってきた相互応援の仕組みを国が横取りしたようにも見えます。

2024年度の夏は6月1日から9月20日までの間に30回の「需給状況改善指示」による融通が行われました。この指示の内容を見ると、当日応援融通を受電した会社がどの時間帯にどれだけ電気が不足していたか、がわかります。さらに当日の太陽光発電量カーブを重ねてみると、電気が不足する時間帯は、夕方になって太陽光発電の発電量が減少している時間帯に集中していることがわかります。

2. 2024年7月5日 関西地区の高気温による需要増で各電力会社から応援融通

この日は、16:30~19:00にわたって、中国電力、北陸電力、東京電力、九州電力、中部電力の5社から、関西電力に最大138.7万KWの応援融通がありました。この日は関西電力が必要としている電力を1社では応援することができなかったため、このように各社が協力して応援しました。配分量は応援する側の余力によって決まります。図1にこの日の各社の応援融通量を見やすく1つのグラフにまとめました。

図1 2024年7月5日 関西電力への応援融通量

関西電力は16:30~19:00の2時間30分にわたって応援融通を受電しています。そのうち18:00~18:30までは少し融通量が減少していますが、これは送電する会社の余力の都合で、これ以上融通できなかったのだと思います。

図2は関西電力が応援融通を受電した日の総需要と太陽光発電量のグラフです。他社から応援融通の受電量と揚水式発電量も1つのグラフに表示し、応援融通を受電した時間帯に薄い青色をつけました。

図2 2024年7月5日 関西電力が受電した時間帯と総需要、太陽光、揚水式発電発電量

16:30以降、オレンジ色で示した太陽光発電の発電量がどんどん下がって、18:00にはほぼゼロになります。青線で示した総需要の方は、16:30以降減少しては行きますが、減少するスピードはゆっくりです。

人間活動は日没とともに止まるわけではなくまだまだ続きます。電気もまだまだ使います。そうなると、太陽光発電が止まってしまう、17:30~19:00くらいが最も電気が不足して、揚水式発電を運転してもそれでも足りず、他の電力会社からの応援融通の電気でしのいだわけです。

今はまだ、需要が急増した1社を複数の会社が協力して、急場を乗り切っていますが、このまま太陽光発電の導入が進むと、2社3社と同時に電気が不足して受電を希望する会社が出てくることになると思われます。そうなると、日本は地域によって時差がほとんどありませんから、各社とも同じ時間帯に電力が不足することになります。応援してあげる会社がなくなってしまうことになるわけです。

国はOCCTOに指示という強い権限を持たせているから大丈夫、と説明していますが、本当に応援可能な会社がなくなったときに、権限だけでは電気は作れませんどうすることもできないと思います。

重要な点は、年間5兆円も再エネ賦課金を負担して太陽光発電を導入しているにもかかわらず、天候の良い日であっても、太陽光発電の発電量が減少する夕方の時間帯は、供給力が不足することがあるということです。この時間帯は、太陽光発電設備を増やしても、発電量の増加は期待できませんから、老朽化した火力発電や揚水発電などの発電設備を減らすことができない、ということです。

別に古い発電設備を残しておいても、不要な時間帯は稼動させなければ、燃料の消費量が削減できるからそれでいいのではないかという意見もあると思いますが、発電設備は稼働しなくても設備がある限り、減価償却費、保守費はかかってきます。それらは発電単価に反映され、規制料金の電気料金原価に反映され、電気料金の値上げにつながります。

建前上は、電気料金は自由化されていますから、規制料金には添加できても自由化料金には添加できないから、値上がりすることはないということになるのでしょうけど、実態は電力市場に流通している電力のほとんどは、JERAをはじめとする、旧一般電気事業者が発電した電気ですから自由化料金も規制料金に引っ張られて上がっていくことになります。

市場価格がゼロまたはマイナスになった時間帯に発電会社が損を出した分は、夜間の時間帯に取り戻すことになります。太陽光発電がいくら導入されても電気の価格が下がることはありません。

尾瀬原 清冽
1966年生まれ。1990年電力会社に入社。給電部門、情報通信部門で勤務。電力の需給運用業務や自動給電システムの設計、新規発電事業者の出力抑制システムの設計などに従事。