中国人による児童殺傷事件がスイスでも発生:なぜ異国の児童を狙ったのか

中国南部の深センで先月18日、日本人学校に通う10歳の男子児童が刃物で襲われ死亡した事件が起き、中国在住の日本人家庭に大きな衝撃を投じているが、欧州のアルプスの小国スイスでも1日正午ごろ、スイス最大の都市チューリッヒ市北部エリコン地区の住宅街があるベルニナ通りで中国人男性による児童刺傷事件が起きた。

上川陽子外相(当時)は中国の王毅外相とニューヨークで会談し、日本人児童殺傷事件の事実解明を要請(2024年9月23日、日本外務省公式サイトから)

王外相と会談する上川外相(当時) 中国外交部HPより

まず、スイス公共放送の2日発のニュースレターから事件の概要を紹介する。

「チューリヒ市北部で1日午後、路上を歩いていた幼稚園児の集団に男がナイフのようなもので切りつけ、子供3人が負傷した。チューリヒ市警察は中国人の男(23)を逮捕した。チューリヒ市警察によると、けがをしたのはいずれも5歳児。1人は重傷で、残り2人は中程度のけがを負い、病院に搬送された。園児は学童施設のスタッフに連れられて、現場近くの幼稚園から学童施設に徒歩で移動途中だった。学童施設のスタッフが別の男性の助けを借りて男を取り押さえた。逮捕された男が園児や学童施設と関係があるかは不明。警察が詳しい動機を調べている」

「サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙」は同日、「スイスで刺傷事件が起きるのは極めてまれで、子供が巻き込まれる場合はさらに珍しい。襲撃は外国人の居住許可を扱う入国管理局に近い、並木のある静かな住宅街で起きた」と報じている。

上記のチューリッヒの刺傷事件は先月の日本人児童殺傷事件と似ている。容疑者が中国人男性、狙われたのは幼稚園児、容疑者はナイフで児童を襲ったという点だ。異なるのはチューリッヒの場合、容疑者は23歳、中国の殺傷事件の場合、容疑者は44歳だったことだ。

問題は犯行動機だが、深センの場合、中国側の発表では「事件は偶発的で、容疑者が単独で行なった」というが、詳細な内容は不明だ。チューリッヒの場合、目下調査中だ。NHKによると、深センの場合、亡くなった児童の両親は父親が日本人、母親は日本に帰化した中国人女性だ。

「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」によれば、「中国では最近、人が多く集まる場所などでの刃物による事件が相次いでいる」という。NHKは先月20日、「ことし6月には東部の江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスが、刃物を持った男に襲われ、日本人の親子がけがをし、男を止めようとした中国人女性が死亡する事件が起きていることから、現地で生活する日本人の間で安全への不安が高まっている」という。

犯行の容疑者が中国人男性、襲われたのが児童、という共通点を持つ事件が短期間に相次いで発生したことから、何らかの推測や結論を付けることは危険であるが、その衝撃は無視できない。なぜ中国人男性が異国の児童を狙ったのかだ。

さまざまなメディアが既に様々な分析をしているが、以下、これまで報じられた情報をまとめてみる。

①メンタルヘルスや社会的プレッシャー
多くの場合、こうした事件の加害者は精神的な問題を抱えていたり、社会から孤立していることがある。中国の急速な経済発展は大きな社会的変化をもたらし、一部の人々にとってはストレスや疎外感が増している。過去のケースでは、こうした暴力的なナイフ襲撃を行った人物は、個人的な不満、失業、あるいは精神的不安定さが原因で事件を引き起こしている。

②政治的または反外国感情
これらの事件が直接的に政治的な動機に関連しているという明確な証拠はないが、中国国内で高まるナショナリズムや、他国(特に日本)との緊張関係が間接的にこうした暴力を助長している可能性がある。

③厳格な銃規制とナイフへのアクセス
中国では厳しい銃規制があるため、ナイフが暴力行為を行おうとする人にとって最も手に入りやすい武器となっている。そのため、銃が手に入りやすい国と比較して、ナイフによる殺傷事件が多発していることが一因だ。

「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」紙は、「中国国内でナショナリズムが高まっていることに対する懸念はあるが、中国政府は、殺傷事件が外国人に対する広範な反感を反映したものではないと強調している」と報じている。ちなみに、スイス最大の政党である極右「国民党」はソーシャルメディアでこの事件に言及し、「輸入犯罪にうんざりしているなら、国境を守るための嘆願書に署名してください」と、ナイフを持った両手の写真も添えた記事を投稿している。スイスの極右政党はチーリッヒの児童刺傷事件を移民問題と関連して受け取っていることが分かる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。