日本では働き方改革が叫ばれています。特にその中心は「働きすぎ」だった日本人をスローダウンさせることが主眼です。1960年代は年間の労働時間は2400時間を超えており、私が会社に入った84年は2100時間、これが急激に減少に転じたのがバブル崩壊の90年頃です。
要は人余り、更にコンピューターが導入され、業務の効率化が図られます。更に官民合同で働きすぎニッポンの是正に取り組んだのです。その結果2021年時点ではOECD調べで1607時間になっています。これは世界28位。ずいぶんゆったりしたと思います。
その間、韓国、中国に猛烈な勢いで追いつかれ、部門によっては背中が見えないぐらい差をつけられてしまいました。
今週号の日経ビジネスの特集は「中国SDVの破壊力」。SDVとはSoftware Defined Vehicleの略で要は双方向の通信能力のソフトウェアを備えたクルマのことで将来の自動運転車にも必須の技術になります。そのSDVは日本勢は中国勢に2周以上遅れているといわれ、もう追いつかないのではないかとされます。記事を読んでいてその理由の一つに働き方があるな、と思ったのです。
中国にある自動車メーカーの残業時間調査では中国新興メーカーは月の残業時間が70-100時間、中国大手で20-100時間に対し中国にある日欧米のメーカーは0-20時間です。一方、SDVのソフト開発者の年収は一般的な方でも800万円、優秀だと1200万円、トップクラスだと2-3000万円レベルとされます。
中国では大学を卒業しても就職がないと言われますが、一方でできる人材には激しく働かせ、多額の報酬を払う流れとなっており、もはや先端技術を搭載した車は中国製が世界水準になるぐらいの勢いとなっています。(アメリカは必死に阻止しようとしていますが、アメリカでさえ技術的に差をつけられたと思います。)
20年前は日本は自動車大国と言われ、10年前にはEVなんてまだまだという風潮が強かったのですが、ソフトウェアの先端技術だけ見れば追い越された感が強いようです。
働き方改革について外から見ていると日本のトーンは「右向け右」的なところがあると感じています。特に非管理職の方々への「思いやり政策」になっており、若い方には「残業はだめ。早く帰りなさい」と言いながら、管理職のおじさんたちが夜遅くまでせっせと働いているのが実情ではないでしょうか?
アメリカやカナダでは上を目指す人は青天井で仕事をします。彼らは「労働」だと思っていないでしょう。仕事は自分との闘いであり、自分の意志で働いているわけです。私もそれに近いところがあります。オンラインでつながることで日本とのやり取りが増えています。その多くは日本時間の午後遅くとか夕方。つまり当地の午前2時とか3時からミーティングなのです。初めは睡眠がうまく取れないので苦労したのですが、最近はあまりにも多いので睡眠時間を2-3回に分けています。
私に送られてくるカナダ在住の方々のEmailも午前1-2時ぐらいまで仕事関係の連絡が入ります。先日お会いした日本人の女性の方も働き詰めと出張続きで家にひと月帰らないこともあると言います。この方は会社の中では相当の責任あるポジションについています。
このところ毎週金曜日夜9時に行われるオンラインミーティング。日本人は私だけですが、多い日で10人ぐらい入ります。多くの人はスマホから入るのですが、たいがいどこかしら外で活動している最中にミーティングに入るのです。つまりアポの中のアポです。それが常態化しているところが今までの時間の使い方と変わってきており、圧倒されるのです。
日本はなぜ青天井で残業することができないのでしょうか?経営者やその幹部は今でもしている方も多いと思います。個人事業主や飲食系の方で無茶な働き方をされている方もいらっしゃるでしょう。それ以外の方はコンプラや法律、更に労働基準監督署まで関与してくると労働を時間で管理する発想がより強くなっています。しかし、労働は最終的には出来高なのです。ここをすっかり忘れています。
一番わかりやすいのは農作物の収穫でAさんは1時間で30キロの収穫をしました。Bさんは10キロしかできませんでした、という場合でもたぶん労賃はほとんど変わらないはずです。私は不公平だと思うのです。一生懸命やった方が損なのです。ならば労働基準を集荷10キロ当たりいくらにしたらどうでしょうか?最近はこの発想が少なくなってきたように思えます。(昔は内職という出来高払いの仕事があり、母親が夜なべをしたというようなお涙頂戴の話もあったものです。)
日本は労働をあまりにも画一的な断面でとらえ、それをすべての人に当てはめようとする風潮が強すぎると思います。そういうと必ず反論されるのが「なら、過労死したら責任とれるのか?」です。初めにも言ったように労働は自己の意志でやるものであり、自分のジョブディスクリプションがあり、やらされ感をなくすことが大事なのです。自分の意志でやること、それに見合う報酬を出すことです。
日本は労働の対価が安すぎます。未だに月の手取りが20万円レベルという話がごろごろありますが、個人的にはこの水準は2倍に引き上げるべきだと思います。逆に本当にフルタイムで仕事をして月に手取り10数万円しかもらっていないとすれば労働者側にも「売るスキルがない」という点を認識すべきでしょう。
労働者の能力を上げる、報酬も上げる、規制で縛りすぎない、働き方は画一的ではない、これが本当の働き方改革だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月6日の記事より転載させていただきました。