「教会の刷新」目標に世界シノドス:フランシスコ教皇が唱える教会の刷新

ローマ・カトリック教会総本山バチカンで2日から約4週間の日程で、教会の刷新、改革について話し合う世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会が開催中だ。

シノドスの公式テーマは「シノドス的な教会、共同体、そして教会の使命」とされており、フランシスコ教皇が7月、関連する作業文書「「Instrumentum laboris」を発表している。それには「どのようにして教会が宣教的・シノドス的となりえるか」というタイトルが付けられている。

バチカンのサンピエトロ大聖堂のファサード(2022年7月21日、バチカンニュースから)

シノドス会議には368人が参加。そのうち、272人が司教、96人が非司教で、40人は聖職者でも修道者でもない。また、修道女を含めると、約7分の1にあたる53人が女性で、バチカンニュースによると、「これは教会史上初のことだ」という。同シノドスは昨年に次いで2回目で最後のセッションとなる予定だ。

フランシスコ教皇は2日、シノドス開会前のサン・ピエトロ広場でのミサの中で、「私たちの集まりは議会ではなく、共同体だ。シノドスは多様性の中で調和を生み出すことが目的である。シノドスは、同じ信仰に満たされ、聖性への同じ願いに駆り立てられている兄弟姉妹たちのためであり、私たちは彼らと共に、また彼らのために、主が導こうとしている道を理解するために努めている。参加者は忍耐強く他者の意見に耳を傾けてほしい」と語っている。

教皇の発言の中で興味深い箇所は「神の計画に従って新しいものを共に創り出すためであれば、自らの考えを犠牲にすることさえいとわない準備が求められる」と述べ、教会の刷新、改革では参加者の間で意見の対立があることを示唆していることだ。それ故に、教皇は約4週間にわたる会議で重要な役割を果たす可能性のある思想的リーダーや主導的な人物に対しても謙虚さを求めているわけだ。

それでは、世界シノドスが目標とする「宣教的・シノドス的な教会」とは具体的に何を意味するのだろうか。シノドスの道は「イエスのように、共に耳を傾け、相談し、決定するプロセス」として理解され、特に社会の周縁にいる人々や教会の周縁にいる人々に対して、教会がより包括的で開かれたものとなる道というのだ。

「教会は深刻な病気だ」と語ったチェコの著名な宗教社会学者トマーシュ・ハリーフ氏の言葉を思い出すまでもなく、教会は現在病んでいる。もちろん、教会が病んでいるのは今回が初めての事ではない。長い教会の歴史の中でさまざまな教会刷新を試みる出来事があった。

前世紀(20世紀)でカトリック教会で最大の改革運動は第2バチカン公会議だった。第2バチカン公会議を提唱したヨハネ23世(在位1958年~63年)は公会議開催1カ月前、「世界はキリストを必要としている。そして、キリストを世界にもたらすことは教会の使命だ。世界は解決策を切望している様々な問題を抱えている。今、世界と対話を始めよう」と呼びかけている。

「アジョルナメント」(現代化)は第2バチカン公会議のキーワードとなった。「真実を変えることはできないが、今日のために別の方法で宣言する必要がある」と述べている(「『第2バチカン公会議』60年目の現状」2022年10月15日参考)。

第2バチカン公会議(1962年から65年)から60年余りが経過した。カトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待問題、財政不正問題などが次々と明らかになり、教会への信頼は地に落ちてしまった。教会から背を向ける信者たちが年々増加している。ヨハネ23世は1962年10月、教会の近代化を目指して第2バチカン公会議を開催したが、第266代教皇のフランシスコ教皇は2019年6月、教会の刷新(シノドスの道)を提唱したわけだ。

フランシスコ教皇が取り組もうとする改革は教会の近代化を提唱した第2バチカン会議のやり直しではないだろう。同教皇に教会刷新を直接の契機はいわれもなく聖職者の未成年者への性的虐待問題の発覚と、その問題を隠蔽してきた教会の責任だ。

ところで、フランシスコ教皇は2019年6月、シノドスの道と呼ばれる教会改革のプロセスに号令をかけたが、それに応じてドイツのカトリック教会が早速、教会改革案を提示したが、問題が生じたのだ。ドイツのカトリック教会司教会議(議長ゲオルク・ベッツィング司教)が推進中の教会刷新策(通称シノダルパス)に対し、「その改革案は行き過ぎだ」という声が教会内外で聞こえてきたのだ(「教皇『教会改革も行き過ぎはダメ』」2022年7月23日参考)。

バチカン教皇庁は2022年7月21日、ドイツ司教会議の改革案に対し、「司教と信者に新しい形態の統治と教義と道徳の方向性を導入し、それを受け入れるように強いることは許されない。普遍的な教会のシステムを一方的に変更することを意味し、脅威となる」として「ドイツ教会の行き過ぎ」に警告を発した。

フランシスコ教皇自身も「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、ドイツ教会司教会議の改革案に異議を唱えたのだ。

それではドイツ教会が提示した改革案は何だったのか。

  1. ローマ・カトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」だ。それに対して、ドイツ教会司教会議は各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する「非中央集権制」を提案
  2. 聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者へ教会をオープンにする
  3. 女性信者を教会運営の指導部に参画させる。「女性聖職者」を認める
  4. 聖職者の独身制は教会のドグマではなく、伝統であることから、その制度の見直し。既婚者の聖職者の道を開く

4項目の内容を見る限りでは、フランシスコ教皇でなくても、カトリック教会の“福音教会化”と揶揄されても可笑しくはない内容だ。バチカンで「それでは何のためにカトリック教会か」という疑問の声が出てくるのは頷ける。

カトリック教会では改革を拒否する保守派聖職者と刷新を求める改革派の聖職者がいることは周知の事実だ。どちらが主導権を握るかは、その時代のローマ教皇の意向にかかっている。

世界シノドスを提唱したフランシスコ教皇は南米出身らしく陽気で明るく、教会の刷新には積極的な発言を繰り返してきたが、教皇就任11年目が経過したが、聖職者の独身制の廃止、女性聖職者の導入などでは依然何も変わっていない。

教会の刷新では合格点が取れる成果ではない。世界シノドスの最終的成果を見ない限り何もいえないが、フランシスコ教皇がカトリック教会の歴史で「教会刷新者」としてその名を残すかは分からない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。