法の支配vs.倫理観:世界はパワーで相手を圧倒する不平等ゲームへ

イアン ブレマー氏が「バイデン氏と異なる『ハリス外交』」(日経)と称した寄稿をしています。ブレマー氏はバイデン氏とハリス氏の違いについて育った世代を指摘しています。81歳のバイデン氏は冷戦時代育ち、59歳のハリス氏はポスト冷戦期であることが国際秩序に関する基本的思想の相違を生んでいるというわけです。

バイデン氏は倫理的な見地から世界があるべき方向を見ているのに対し、司法というキャリアを持つハリス氏は法の支配という観点が強いというわけです。

石破茂氏とカマラ・ハリス氏 両氏インスタグラムより

なるほど、確かに面白い着眼であります。

私は90年代はカナダとアメリカ両方の兼任だったのですが、当時から強い思いがあったのは北米、特にアメリカは法律の縛りに依存しすぎている点でした。思い出すのは当時、シアトルのスタバでもフロリダのスタバでも同じ味で同じサービスが受けられるのはルールや規範でアメリカ人を縛り上げ、個性を出させないからだ、と言われたことがあります。アメリカは多民族の上に東西南北でかなり文化が違うし言語(表現)も若干違います。それらを一体化するのは様々な常識観に蓋をすることが必要だというわけです。

但し、このマニュアル縛りの発想は今ではだいぶ変化しており、一字一句ロボットのような扱いをする非人間的なやり方ではなく多少柔軟性を持たせ、個性を感じられるように変化しています。つまり法(ルール)の支配から倫理の観念を取り入れる方向に揺り戻しが起きているように感じます。

ブレマー氏の寄稿の最後のほうでイスラエル問題にさらっと触れています。「パレスチナ自治区ガザとヨルダン川西岸におけるイスラエルの国際法違反に米国も関与しているとされる問題に対し、ハリス氏はバイデン氏より神経をとがらせている。ハリス氏が法の支配を尊重するようイスラエル政府への働きかけを強める可能性はある」とあります。つまり今、イスラエルが行っている行為に加担するアメリカは自らが法のルールに基づいていないかもしれないのでこの戦いを抑制させるのではないか、というわけです。

バイデン氏はイスラエルのヒズボラへの攻撃について側面支援するのみならず、イランがイスラエルに行った攻撃に対しても「対抗措置を取る権利がある」と述べているのは倫理的観点が強いわけですがこれを法のルールに基づいた判断にシフトさせればバイデン氏の立場は微妙になりかねません。

「法の支配」とは、専断的な国家権力の支配(人の支配)を排斥し、権力を法で拘束するこ とによって個人の権利・自由を擁護することを目的とする原理(防衛研究所ウェブより)とあります。平たく言えば権威主義はだめよ、民主主義的に決められた権利と義務に則って行動して下さね、ということかと思います。

但し、近年、特に複雑になったと感じさせるのは人の権利の主張が無限の広がりを見せている点です。つまりマイノリティーの主張でありそれを法で保護する動きであり、それにより法体系に基づく人の権利と義務全体に歪みが生じているのです。つまり片方を法で新たに認めれば片方は譲歩しなくてないけないのです。

法は万全か、といえばそんなことはないのです。法律を生業としている方々には申し訳ないのですが、法律はすべてを満足することはできません。なぜなら常に不備が起き、常に新しい切り口ができるのです。故に世の中で裁判が無尽蔵に起きるのです。

日本ではケンカすると「訴えるぞ!」という脅し文句が出てきます。当地でそういわれれば「どうぞ」と返されます。理由はつまらない内容の訴状は裁判所判断まで行かないのです。判事は忙しい、だからその前にセトルメント(和解)せよという方針で様々な落としどころを探る仕組みが存在します。この和解こそ倫理的観点に沿った妥協であります。法律をギシギシ突き詰めてもなんら解決策にはならないということです。

法は必要、ただし、その解釈は時代とともに変わります。そこが人間的であり、ある意味倫理的かもしれません。法律の文言を信じて裁判所に訴えても世論の趨勢に押され負けることもあります。

倫理観とか道徳心といった曖昧模糊としたものを文章化したものをわかりやすく、万人が理解できるようにしたのが法律なのかもしれません。しかし、国際法などについては掟破りがいくらでも生じています。プーチン氏には逮捕状が、ネタニヤフ氏にも逮捕状請求が出ていますが、それをかいくぐり、プーチン氏においてはICC加盟国であるモンゴルを訪問した際も逮捕されることはありませんでした。なぜ?ですよね。

なにが最も効果的なのでしょうか?パワーゲームで相手を圧倒させることでしょうか?これでは大国と先進国が有利に決まっており不平等です。しかし少なくとも世界はこの不平等ゲームをうまく利用しているとしか思えなのです。倫理も法律も自己都合の解釈という手段のもとで、です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月7日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。