防衛省が最重点投資すべきは火の出る玩具より施設統廃合と建物断熱化

防衛省が現在もっとも最優先で取り組むべきは、基地や駐屯地など施設の統廃合、それとあわせて建物の断熱化です。

現在5年間で43兆円、毎年平均で8兆円を超える巨額の防衛費が投じられています。自民党の公約ではこれをGDP比2パーセントまで引き上がるといっています。であれば現在の1.5倍の12兆円代にあげることになります。

でもそれは無理でしょう。膨れ上がる社会保障費の増大があり、それから見れば額は少ないとはいえ、巨額の防衛費を維持するのは不可能です。これ以上納税者の負担を増やすことは不可能です。無理に行えばGDPの55%の個人消費は冷え込みます。

これを国債で賄うのであれば財政赤字が膨らみ、円の価値は下がって円安が進みます。そうなればますます国民生活を圧迫して悪性のインフレが進むでしょう。

であれば、防衛費のGDP比2パーセントは無理です。個人的には7兆円強がいいところで、6兆円を割るかもしれません。

そうなった場合、今の勢いで買った装備の維持費が払えるのでしょうか。恐らくは維持ができずに稼働率が低く打ち捨てられると思います。加えて整備する人間もいません。

自衛隊は構造的に人員不足です。いくらこの程度の部隊と隊員が必要だとイキってみても、現実隊員は集まりません。少子高齢化という現実をみれば、自衛隊の部隊数や隊員数は減らさざるを得ない。陸自の北海道の部隊では充足率45%を切る部隊もあります。西方で新たな部隊を新設しつつ、既存の部隊を統廃合しないからです。

防衛省や自衛隊では不要な部隊と施設が多すぎる。これを統廃合すべきです。そうすれば間接要員のダブりを防げます。海自の艦艇にしてもイージス艦ですら充足率が6割程度です。それで現在の水上艦艇を維持して哨戒艦まで新設し、潜水艦22隻体制を維持するのは不可能です。

対水上戦の訓練の様子
自衛艦隊HPより

ですから不要な部隊を削って基地や駐屯地、施設を減らすべきです。そのうえで建物の断熱化を進めるべきです。先日ボランティアで毎年寄付をしていた岩手の児童福祉施設にいってきたのですが、東日本大震災の折に建物が倒壊して、建て替えたそう立派でドイツ並みの断熱建物になっていました。運営がドイツのプロテスタント系の教会ということもあり、資金はマルタ騎士団やシーメンスが出してくれたそうです。

断熱壁面やダブルガラスを使用して、屋上や敷地にはソーラーパネルがあり、かなりの光熱費が節約できているとのことです。

同じような断熱建物、既存の寿命が充分にある建物は屋上の断熱と、サッシの窓だけでもダブルガラスのものに替え、ソーラーパネルを設置すべきです。アルミサッシを全交換するとコストがかさむので、交換せずに何らかの改善策を行うべきです。

ソーラーパネル用の蓄電池はコストがかかるので、例えば潜水艦で不要となった電池を流用してはどうでしょうか。潜水艦では不要になっても蓄電効果はあるし、そのまま廃棄すると金がかかります。再利用を装備庁で研究してはどうでしょうか。戦闘用パワードスーツみたいな胡乱な研究より遥かにマシです。

施設を集約化し、断熱化をすれば防衛省や自衛隊で使用する電気やガスなどは劇的に減るでしょう。エアコンの数も減らせるはずです。これは経済安保上必要だと思います。そのような取り組みが全省庁、民間にまで広がれば日本全体として輸入するエネルギーをかなり減らせると思います。また有事の際に送電が止まった場合にも有利です。

この話は河野太郎氏が大臣のときにお話しましたが、実現はしませんでしたが、後にサッシ業界の方と雑談していたときに河野氏がサッシ業界にネジを巻いて多忙となったと聞いております。

防衛費が今後削減された場合、このようにエネルギーに対する支出を減らせることは防衛省や自衛隊にとって大きなメリットだと思います。また隊員の生活や勤務環境の改善にもなり、募集や中途離職の低減にも有用だと思います。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

European Security & Defenceに寄稿しました。
JGSDF calls for numerous AFVs within Japanese MoD’s largest ever budget request

東京新聞にコメントしました。
兵器向け部品の値段「見積り高めでも通る」 防衛予算増額で受注業者の利益かさ上げ 「ばらまき」と指摘も

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。