中東の火薬庫再び?イスラエルによるイラン攻撃の現実味

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まずはイスラエルがイランの核兵器施設を攻撃・破壊してから、全てを考えよう。(トランプ氏の発言)

この発言は極めて挑発的に聞こえますが、国際政治の現実を考慮すると、無視できない一面もあります。

中東が火を噴く可能性
「おぉ…boys 、よくやったなぁ、素晴らしい」1981年6月、レーガン大統領が本音を言った。それまでオフレコで、一回も公開されることはなかった。 筆者は過去40年近く、ワシントンを中心に米国の安全保障と諜報に関係する政治家などを直接...

上記は私が数ケ月以上前に書いた内容ですが、そのほとんどは今もなお有効であると感じています。
善悪論は多々あります。だがイスラエルにとって、アラブ諸国が核兵器を保有することは、いかなる犠牲を払ってでも防がなければならない脅威です。

書いたように過去にイスラエルは、イラクやシリアの核施設を攻撃した前例があり、核兵器開発を許容することで自国の存亡が危機に晒されると判断した場合、さらなる軍事行動をも辞さない姿勢を見せています。

たとえそれが中東全体の戦争拡大につながるリスクがあったとしても、イスラエルは自国の安全保障を最優先するため、先制攻撃を選ぶ可能性があります。

現在イスラエルは、ヒズボラ・レバノンへの攻撃で忙しいこともあり、米国大統領選挙前にそのような事態が起こる可能性は非常に小さく、ほぼゼロに近いでしょう。

しかし、選挙後、特に「トランプ再選」となれば、イスラエルがイランの核施設攻撃を含む大規模な軍事行動を起こす可能性は大いに高まると考えられます。

多くの日本の識者は、関係者と40年くらい深い議論してきた私と違って、主に伝聞情報に基づいて主張します。アメリカには強力なユダヤ人票やユダヤロビー、さらにはキリスト教原理主義者の影響力があり、米政府はイスラエルの言いなりになると指摘します。確かにそのような側面は存在しますが、一般に言われているほど決定的な要因ではありません。

さらに、イスラエルによるガザ侵攻とロシアによるウクライナ侵攻と同じで、2重基準だと米国を非難する人間もいます。罪もない民間人が多数死んでいる現実など、表面的に共通点はありますが、双方に言い分があるパレスチナ問題と、一方的なプーチンによる侵略が同じであるはずがありません。本質をみれば違う虐殺であることを理解することができないのでしょう。

当然、なんとかしないといけない女子供などが4万人以上殺されているガザ、風前の灯の100人くらいの人質の命です。

イランは間違いなく「全面戦争」を望んでいません。特に新政権は米側とのさらなる交渉を望むようにみえます。しかしイスラエルによる核兵器施設や石油施設への大規模攻撃、人的損失、インフラへの全面攻撃を受ければ反撃します。

半端ではない軍事力をもつイランとの全面戦争。その場合、米国も直接介入を余儀なくされる可能性が増し、そうなると多数の米兵が死にます。

バイデン政権は外交を通じて戦争回避を目指し、イスラエルとその敵対勢力双方の立場に一定の理解を示しつつも、イスラエルを無条件で100%支持しているわけではありません。

それでも、アメリカは依然として基本的な価値観においてイスラエルと強く結びついています。民主主義国家としての連帯感、そしてテロとの戦いにおける同盟国としての関係性を重視しているため、米国はイスラエルを強く支持する傾向にあります。

さらに、第二次世界大戦中にナチスによって行われたユダヤ人に対する蛮行の記憶がアメリカに深く根付いています。歴史的な贖罪の感情がアメリカ国内でのイスラエル支持を後押ししており、これもまた米国がイスラエルに対する基本的な支持感を維持する大きな要因となっています。

ここで非常に重要な点をひとつ強調しておきます。繰り返しになりますが、基本的にアメリカはイスラエルを支持しており、この姿勢は今後も変わることはないでしょう。しかし、バイデン政権によるネタニヤフ首相個人への批判は非常に強いものがあります。過去数千年まで遡れる歴史的な経緯を除く、今回の惨劇の切っ掛けになった10月7日のハマスによるテロ攻撃「事件前」、バイデンはネタニヤフに対して冷ややかな態度を示していました。

予想されたガザへの1万倍返しの報復が始まる前、バイデン政権はイスラエルの自衛と「テロとの戦い」に関する国防作戦の正当性には理解を示していましたが、その一方で、軍事行動を制限する条件も提示してブレーキをかけるために努力を惜しまなかった。

この背景には、ネタニヤフが個人的な問題を抱えていることも影響しており、そのために今回の戦争拡大を止めることが難しい状況にあるのです。この点が、バイデン政権にとって、イスラエル支援に関する重要なマイナスの判断要因となっています。

総論として、アメリカがイスラエルの行動を完全に止めることは現実的に難しく、むしろ黙認や支援に回る可能性が高いと言えます。

日本の人々にとって、このような現実は理解しにくく、驚きを伴うかもしれません。しかし、これが国際政治の冷厳な現実であり、複雑な力学を理解するためには避けて通れない問題なのです。

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ガザなどで多くの民間人が犠牲になっている事実を見れば、イスラエルやそれを支持する米国を非難するのは容易です。

メディアを含め、多くの日本人がその立場を取ることも理解できます。しかし、ハマスが民間人を「人間の盾」にしている事実や、国際政治の現実における冷酷な力学を見据える必要があります。

特に日本は、この冷徹な国際政治の現実を巧みに利用してきました。

戦後、日本は米国の圧倒的な軍事力に安全保障のほぼすべてを依存し、その結果として経済や技術の発展を遂げました。冷戦期、米国は共産主義と戦うために多くの犠牲を払いましたが、日本はその取引を賢く利用し、さらに同盟国に市場開放した米国を利用、世界有数の経済大国となったのです。

日米安全保障条約は、米国に日本防衛の義務を負わせる片務的な条約であり、日本は自国の軍隊が血を流さずに済むという恩恵を享受しています。

この条約の背景には、米国の「核の傘」が大きく関わっており、これが日本の平和と安全の大きな要因の一つです。しかし、この現実を日本政府は巧みに隠し、表向きには「核廃絶」に向けた努力をアピールしてきました。

実際、オバマ政権が核兵器の威嚇力を減らそうとした際、日本政府は米議会や関係者に働きかけ、日本の防衛力が損なわれるとしてその動きを止めることに成功しました。この事実を知る日本国民は少なく、多くの人々は日本政府が本気で核廃絶に取り組んでいると信じ込んでいます。

戦後、日本人の多くが戦争や核問題に対して「思考停止」に陥り、現実を直視しようとしない傾向があるのです。

イスラエルと米国への批判も、一つの有力な見解です。しかし、同時に、その米国に日本が自国の安全保障をほぼ100%依存しているという現実も無視できません。日米安全保障条約は、1年の事前通告で破棄できる条約であり、その脆さもまた現実です。組みたくない国とは手を切るのも1つの方法です。