収支報告書不記載問題(裏金問題というのは不正確だが人口に膾炙しているので使う)に伴う自民党非公認、比例重複拒否で各選挙区大荒れだが、とくに大混乱になっているのが北信越地域だ。
なにしろ、高木毅(福井2)が非公認、比例重複なしが若林健太(長野1)、宮下一郎(長野5)、細田健一(新潟2)、高鳥修一(新潟5)、田畑裕明(富山1)、小森卓郎(石川1)、佐々木紀(石川2)、稲田朋美(福井1)と半数以上の議員が該当し、能登半島地震の復興にも支障を来しかねない酷さだ。
また、政治資金の腐敗問題のなかで、そもそも、この収支報告書不記載問題よりもっと深刻な問題があるだろうと思う。それは、定数是正に伴って県が6つの選挙区から5つに減区されたことで生まれた、新潟4区(長岡市が有権者の6割余りを占め、さらに柏崎市・小千谷市・見附市などがエリア)での混乱だ。
ここに、立憲民主党の米山隆一(かつては自民党)、前回はその米山に敗れて比例復活した自民の泉田裕彦、お国替えで移ってきた鷲尾英一郎と3人の現職が出馬する。
ここでの事情は、かつて「泉田氏の告発を揶揄するマスコミと政治家の不見識(2021.12.05)」という記事を書いたことがある。その要旨は以下のようなものだったが、裏金問題などこれと比べればかわいいものだ。本当に戦わなければならないのはこういう問題だ。
自民党の泉田裕彦国土交通政務官が、新潟の星野伊佐夫県議から裏金を要求されたと暴露した事件について「どっちもどっち」とか「変人代議士と角栄以来のドンの馬鹿馬鹿しい喧嘩」という報道もある。
だが、悪気はなかったとしても、県会のドンが明確に選挙違反である裏金のばらまきを泉田氏に進言し、泉田氏がこれを断ったということだが、録音テープもある話で、泉田氏がこれを告発したことを批判するいわれはなく、「どっちもどっち」などというのは不見識極まる。無条件に泉田氏を支持するべき問題であろう。
そんなことを公開しなくてもと言う人もいる。しかし、泉田氏は元長岡市長の森氏が立候補して保守分裂した結果、野党連合の米山隆一氏に敗れたのは、こうした資金を撒かなかったためだ、次は交代させたいなどと批判されたから、その批判に反論するためにこの件を持ち出しただけであろう。
新潟では知事が逮捕されたこともあるし、過去に長岡市を舞台にした田中角栄金脈事件もあった。泉田氏がその風潮を変えようという方向で努力してきたことは、誰しもが認めるだろう。
柏崎原発問題に対して、泉田知事は再稼働に反対はしなかったが、東京電力にいろいろ注文を出した。県民の支持は強く、4選出馬が嫌われ、地元新聞に些細な県政スキャンダルを執拗に叩かれたのに嫌気がさして出馬せず、かわりに長岡市長だった森民夫が建設業界などの支持で出馬した。しかし、あまりにもの醜悪さに、買春疑惑で知を辞任することになった米山隆一氏が当選したという曰くがある。
その後、前回の総選挙では自民党の長島代議士(山古志村村長)が死去したこともあって、地元ではないが、知名度の高い泉田氏が自民党公認となって当選した。
ただ、泉田氏は角栄の地元の保守政治家らしい金の撒き方もどぶ板もしないものだから、自民党のなかに不満はあった。そこで、森民夫氏が一部の関係者に推されて立候補を強行したが、保守分裂では野党に対抗するのは難しく、当初は不利と見られていた米山氏が漁夫の利を得た。
星野氏が配れと言ったものは合法的な費用負担だとかいっているが、やりとりをみると、泉田氏がもっと選挙が先の時点なら、政治団体間の寄付で処理できようが、広島の事件の後だし、いまさらこの時点ではそれもできないし(河井氏は3ヶ月前くらいなら大丈夫と前例にてらして考えたが検察と裁判所はそれを認めなかった)、違法な金になるのでできないと明確に断っている。合法的な金の配分を星野氏は要求したのではない。
金を配れというアドバイスを無視したからといって、次は替われなどと泉田氏が言われる筋合いはあるまい。この問題はどっちもどっちではない。
報道では星野氏が知事選挙に泉田氏を担ぎ出した恩人だとか書いているが、そのとき、泉田氏に知事選挙出馬をすすめてシナリオを書いたのは、当時、民主党の渡辺秀央氏であって星野氏ではない。
そもそも、泉田氏が硬骨漢で、裏金などとはいちばん無縁であることは承知のうえで、新潟5区から出て欲しいと4年前の総選挙で頼んだのは地元の自民党だ。
そもそも、今回の選挙で誰がまったく当選の見込みがない森氏に立候補させたのかも不思議だ。誰が得したかと云えば、もちろん米山氏だが、そう決めつけるわけにも行かない。自民党も次回の総選挙では定数が一人減って6人か5人になる。そうなると、今回の6人の小選挙区候補者がひとり余る。
さらに、比例単独で出た鷲尾英一氏と7人で5つの席を競うかもしれない。だから、よその選挙区の代議士たちも利害関係人なのである。いずれにせよ闇は深そうだが、だからといって、違法な金を要求された政治家にどっちもどっちと言うのはいかがなものか。
そして、実際に地元のボスたちは、民主党から鞍替えでありながら、あるいは鞍替え組だからこそ保守政界の現実に理解が深いということか、鷲尾英一郞氏を新5区支部長に選んで泉田氏の追い出しに躍起だ。
今回の総裁選挙では、鷲尾氏は小泉陣営の選対本部長をつとめ、泉田氏は石破陣営の政策作りの中心の一人として大活躍した。石破氏が極端な主張を控えて、勝利したことの立役者である。
誰も政治改革といいながら、本気で政治改革を実践し腐敗と戦ってきた泉田氏を自民党をどう扱うか、これが政治改革に対する本気度のリトマス試験紙というものだ。