「アフリカの角」地域に立ちこめる暗雲

日本では、アフリカのニュースが少ない。もちろんよく探してみたら、どこかで誰かが扱っているのが見つかったりすることはある。しかし10月10日にエリトリアの首都アスマラで開催されたエジプト、ソマリア、エリトリアの三カ国の首脳が集まった会議については、日本では文字通り全く報道されなかった。検索をかけても、全く出てこない。かなり徹底している。

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この三カ国の国家元首がエリトリアという「アフリカの北朝鮮」の異名を持つ国に集まり、安全保障面での協力を協議した。これは、東アフリカあるいは「アフリカの角」と呼ばれる地域で、エチオピア包囲網が形成されていることを意味している。共同声明では、地域内諸国の主権・独立・領土的一体性が尊重されなければならないことが謳われた。これはエチオピアに対するけん制である。

エチオピアは人口1億2千万人を抱えるアフリカの地域大国の一つである。アフリカ連合(AU)の本部が首都アディスアベバで置かれていることでも有名だ。ヨーロッパ列強の植民地化に最後まで抗して独立を守っていた国としての威信を持つ。16万人以上の兵力を擁して空軍力まで持つ国は、アフリカでは珍しい。

しかしエチオピアの軍事力は、エジプトと比較できるものではない。エジプトは34万人の兵力を持ち、アメリカからの軍事援助などもふまえて近代的な武器装備を持つ。実力のランクが違うと言えるだろう。

エチオピアとエジプトは、「大エチオピア・ルネサンス・ダム(GERD)」の建設・稼働をめぐって、険悪な状態が続いている。ナイル川下流のエジプトが、上流のエチオピアに建設されたダムによって水流に悪影響が出ると主張している。エチオピアはその主張の妥当性を否定しているため、折り合いがつかない。

幸いなことに、エチオピアとエジプトは陸続きに接した隣国ではない。そのため偶発的事態で武力衝突に至る可能性は抑えられてきている。しかし両国の間に位置するスーダンが、昨年4月から激しい内戦に突入している。これにともなってエチオピアとスーダンの間の国境地帯での軍事的小競り合いが絶えない。

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スーダンと接するエチオピアの国境地域は、エチオピア連邦の仕組みで言うと、アムハラ州が位置するのだが、エチオピア連邦政府とアムハラ州軍が、民族問題などに起因する対立で、事実上の内戦と言ってよい軍事的衝突を繰り返している状態にある。非常に荒れている地域だ。

エチオピアとソマリアの関係は、今年1月に劇的に悪化した。エチオピアが、ソマリア領土内の事実上の国家であるソマリランドと、港湾使用(軍港を作る予定と考えられている)の協定を結んだ。その協定に、見返りとしてエチオピアが将来ソマリランドを独立国として認めることをほぼ約する条項があったため、首都モガデシュ近辺を実効統治するソマリア連邦政府が猛然と抗議したのだ。

エチオピアとソマリランドは、その後も軍事訓練などを含めた交流を活発化させている。代わりにソマリア連邦政府実効統治地域に展開していたアフリカ連合の平和活動(現在はATMIS、来年からAUSSOMという名称のミッションに移行する予定)の中核を担っていたエチオピア軍が、ソマリアから撤収することになった。

長期にわたってソマリアにおけるアルシャバブ掃討作戦に従事してきたエチオピア軍の撤退は、現地社会に波紋を投げかけ、残留要請の運動が起こったくらいであった。しかしソマリア連邦政府は、むしろエチオピアと険悪な関係に陥って久しいエジプトに急接近し、軍事援助を引き出すとともに、エチオピアに代わるAUSSOMへの兵力提供をする約束を取り付けた。エジプトが、エチオピアに代わり、アルシャバブ掃討作戦に従事することになるのである。これは地域情勢に、様々な影響を与えていくだろう。

エリトリアは、現在のアビイ政権が成立してすぐにエチオピアと和解を果たした。そして2020年に勃発したエチオピア北部におけるティグレイ紛争では、エチオピア連邦軍とともにティグレイに展開して軍事介入を行った。その際のエリトリアの蛮行は、悪質な戦争犯罪行為として、激しく非難された。もともとエリトリアとエチオピアの国境地帯にあたるティグレイ州の勢力と、エリトリアは対立的な関係にある。

しかしこのティグレイ紛争が、2022年にアフリカ連合の調停で「プレトリア合意」という停戦合意にたどり着いた。エチオピア国民にとっては凄惨な内戦の終了は歓迎すべきことであり、ティグレイでは戦後復興の再建に向けた政策が導入されてきている。日本政府も、国際機関への資金提供などの形をとって、復興支援に関与する姿勢を見せている。

しかしこのティグレイ紛争の終結は、エリトリアにとっては、望ましいことではなかった。「プレトリア合意」後は、エチオピアとエリトリアの関係は、冷却化したとみられていた。

その状況で、エリトリアの首都に、エジプトとソマリアの政治指導者が集まり、三カ国の首脳会議を開いた。そのため、エチオピアを取り囲む包囲網の成立として、アフリカを見ている者たちの間では、大きな注目を集めることになった。

こうした状況は、日本にいると単にニュースで見ることがないだけでなく、そもそも何も関係がない、というふうに感じるものであるかもしれない。しかし石破首相も、あらためて「自由で開かれたインド太平洋」を推進する所信表明演説を行った。「インド洋」は、東アフリカまで続いている。エチオピアと国境を接するジブチには、自衛隊の唯一の海外基地があるが、ジブチ政府は地域情勢の悪化に懸念を深めている。

三カ国首脳が集まったエリトリアが面しているのは紅海で、ガザ危機に反応したイエメンのフーシー派が船舶攻撃を行い続けているため、海上交通がほとんど遮断されているような地域だ。フーシー派と交戦状態にある米軍も展開しており、中東情勢をめぐる事情での緊張も高まっている。

いくら日本から離れているといっても、21世紀の今日、とにかく全くゼロの関心、というわけにはいかないはずである。

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