どうして格差が生じたのだろう?:ノーベル経済学賞から考える

今年のノーベル経済学賞を受賞した一人、MITのダロン アセモグル教授は「社会制度が各国の繁栄の違いを説明する一つの要因」(スウェーデン王立科学アカデミー)をその授賞理由としました。あまり堅苦しい経済の話は敬遠されるの深入りしませんが、私が気が付いた画期的な点はアセモグル教授の研究が経済学と政治学を結び付けた点にあります。近年特に注目される学際と称される複数の学問の領域の組み合わせにおいて一般的な経済学と社会学、心理学などの組み合わせから新しい切り口となる経済学と政治学の組み合わせによる研究であり、これは新鮮でした。

ニューヨーク アメリカ NY AerialPerspective Works/iStock

氏の研究材料の一つにアメリカとメキシコの国境近くのそれぞれの町の発展について調査したものがあり、アメリカの町は発展度が高かったもののメキシコのそれは遅れたのはなぜか、という調査があるそうです。これは面白い着眼だと思います。同じような町で同じようなロケーションにありながらも国家体制の違いでその発展度には大きな影響が生まれるというわけです。

私が学生の時に研究した「共産主義経済は経済発展に寄与するのか」というテーマについては共産体制の初期の頃はよく機能するが、その後、腐敗などで富の分配が正常に行われず、民の「やる気」も向上せず、経済成長は低位に留まる、よって民主主義が最終的には有利であるという結論を出しました。現在地球上の半分ぐらいを占める権威主義の国家は指導部や独裁者による何らかの支配が行われています。金銭と権力による一定の搾取であり、個人的には奴隷時代の労働生産性と同類だと考えています。

つまり民は自主的に労働をするのか、目標なく食や生きる為だけに労働を強いられるのかによって人間が飛躍できるか大きな差になると考えています。マズローの5段階欲求はその根本をうまく示すものであります。つまり最底辺が「生理的欲求」であり人間として生きることなのです。権威主義下においては努力しても実らないというあきらめ故に5段階欲求の最低レベルの願望に留まりやすくなると考えています。

では民主主義ならどんな場合でも成功するのか、という点についてはこれまた国家の影響が出やすいと言わざるを得ません。例えば日本はマズローの5段階で個人的には第3段階の「社会的欲求」程度ではないかとみています。それは社会が平等ながら出る杭を打つ独特の社会的構造を形成しているからです。もちろん、第4段階の「承認欲求」や第5段階の「自己実現欲求」に至る人もいます。私はこれが格差として表れているのではないかと思うのです。

つまり一般に格差とは経済的なものでありますが、日本の場合はそれ以上に思想的な格差を感じるのです。なぜかといえば安心安全が絶対基準の日本においてそこから先、努力するには高いハードルがあるからです。そのハードルを乗り越えるのが「かったるい」と思えば第3段階でとどまるのです。

ではアメリカはなぜ成長と格差が共存するのでしょうか?私は意外にも銃社会や移民を含む様々な人種がいることで第3段階では不満なのだと考えています。例えば苦労して購入した住宅の隣人が狂人だったとしたらどうでしょうか?嫌ですよね。だからなるべく早くもっと安全で快適なところに引っ越したいと思うでしょう。これが安心安全が担保されないアメリカにおける格差の原動力ではないかと考えるのです。

アメリカやカナダの一部では残念ながら今でも白人至上主義はあります。というより私は白人閉鎖社会と申しげたいと思います。白人には人種的保守思考と共にアジア人やヒスパニックの思想を理解しようともしないし、価値観を共有しにくいと考える人はいるのです。事実、コンベンションなど様々な人が集まる場所に行くとエスニックないし肌の色による分離はナチュラルに起こります。

英国ロンドンでかつて街からロンドンっ子がいなくなったと言われたことがあります。アジアからの富裕層の移民がロンドンを占拠し、英国人が逃げたというものです。ここバンクーバーでも郊外に行けば基本的には白人社会で極めて保守的です。バンクーバーから車で1時間も行けばそんな感じだし、州都ビクトリアを含むバンクーバー島という大きな島がありますが、こちらも白人主導社会であります。

つまり並列関係で混じるのが難しいのが移民国家であり、ヒエラルキーとしての移民国家が存在するのです。故にヒエラルキーの上層に上がるために努力をして得た者が格差として具現化されると考えています。

ちょっと難しい着眼点かもしれませんが、私が30数年海外に住んでいて日々の生活から感じたことなのでさほど外してはいないと思います。これを学術的に分析すれば面白い結果が得られるのではないかと思っています。アセモグル教授は植民地時代のアフリカにおける経済成長とその植民地支配政策による経済を研究されたとあります。私はその研究内容を全く存じ上げませんが、上述のような私の立てた仮説をベースに考えるとどのような結果が導き出されるのか大変興味があるところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月16日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。