投資マネーの行方、こればかりは誰も完全に予見することはできません。中国では株価指数が9月24日と26日に発表された景気刺激策を受け25%も急騰したものの国慶節後に期待された中国政府の発表が「景気刺激策はやるにはやるが具体的規模も数字も何も示さなかった」ため失望を誘い、ウィーチャットには「証券口座を閉める」というフレーズが5600万回もでてきたとブルームバーグは報じています。
想定通り共産党指示に基づき、政府からは幕間つなぎのような声明が出たのですが、具体案は今月下旬に出てくると思われますのでそんなに焦らなくてもよいと思います。
株価の動きは人の心理そのものであり、参戦している私でも自分の守備範囲内外で起きている様々な人間模様ならぬ「株価模様」に一種のドラマを感じることすらあります。そんな激戦株式市場のこのところの動きについて少し覗いてみましょう。
水曜日の東京市場を襲ったのはオランダの半導体装置メーカーASML社が決算発表に伴い、先行き見通しを引き下げたことが原因でした。ASML社は半導体装置メーカーとしては2023年売り上げで世界トップ。同社が見通しを引き下げた理由の一つが「AI部門以外が弱い」であります。これが同社だけの問題か、業界全般につながるのか今後出てくる他社の決算も重要になります。ただ世界の半導体製造企業売り上げトップ15には日本企業が7社も連ねていることから日本株が半導体関連というイメージが強調されます。よってレーザーテック株が水曜日に13%も下げたのも連れション状態だったということになります。
次にボーイング社。年明けに新型機のドアが飛行中にすっ飛んだという映画もどきの事故を起こした上に新型宇宙船の地球帰還も失敗。それもありリストラを発表し、ついに新株と社債で3.7兆円を調達とあります。赤字が続く同社においてそれは焼け石に水なのか、一部ではチャプター11の声も出ており、解体的見直しは必至ともされます。飛行機や軍需の需要は旺盛なのに信用してもらえず、生産のアウトプットも遅延に次ぐ遅延です。世界最大級の航空機製造会社がこれほど行き詰まるとは想像しがたいのですが、「踊ったトップ企業」という見方もできるのでしょう。胡坐をかいたということです。
同じことは以前お伝えした半導体メーカー、インテル社の苦境にもみられます。結局、ボーイング社もインテル社も図体が大きくなったけれど手と足がバラバラに動いて能力を発揮できていないということかと思います。その究極のポイントは従業員が仕事に愛を持っていないとみています。会社の知名度という看板、高給、プライド、従業員には夢はなく、経営者には勝者の驕りがそこにあるのだと思います。
そういう意味では清貧的な思想である日本はまじめに積み上げることが多く、業績はおおむね良好に推移するだろうと予想しています。いま、ちょうど北米では7-9月期の決算発表が始まったところで先陣を切って金融大手の決算が発表になっています。ゴールドマンとモルガンスタンレーの決算は好調、JPモルガンは決算全般は冴えなかったものの投資銀行部門が支えとなり株価は上昇しました。一方、バンク オブ アメリカやシティは冴えない結果となり、まちまちの状況に見えます。
今後ですが、注目したのは英国の9月インフレ率が前年同期比1.7%まで低下したことです。カナダも9月度は1.6%まで下がっています。アメリカが同じ期で2.4%で失望されたのですが、カナダと英国が8月比べ加速度的に下がっていることからアメリカで11月に発表される10月のCPIが2.0%前後まで下がる公算はあります。その場合、利下げピッチの議論が再度高まる公算があります。カナダでは次回の中銀政策決定会合では0.50%の引き下げが議論の焦点とされます。そりゃそうです。現在の政策金利が4.25%でインフレ率1.6%では整合性が取れないのです。
利下げは基本的に企業の借入金金利負担を下げますので株価には有利になります。特にハイテク業界は借入金が多いため、このメリットを享受しやすく株価にはプラスになるとされます。ただし、AIブームはやや行き過ぎのきらいもあり、個人的には深追いには全く興味がありません。むしろ現在、幕張メッセで開催されているCEA TECHでAIを現実社会に落とし込む面白いアイディアを提供している企業の方になにか夢を感じます。
もう一つの着目点は原油価格の先行きです。奇妙な話ですが、イスラエルがイランの石油基地はターゲットにしないと発表し、原油価格が一時5%近く下落する場面がありました。人は一体何を期待しているのか不謹慎そのものでありますが、原油価格が先行き需要の不透明さもあり現在の水準から大きく上がることが予想されないのであれば景気全般にはプラスでしょう。資源関連株にはやや厳しさがありますが、金と銀の価格は堅調であり、個人的にはほとんど懸念はありません。
この先、選挙結果という波乱はありますが、アメリカはどちらが勝とうと株価には一定程度、織り込み済みですし、日本も与党がある程度負けることは見込んでいます。最新の調査では自公の過半数維持は五分五分という感じですのでこの結果だけは株価に織り込めず、サプライズ感がまだ残ると思います。
概括すると株価は今は上がりやすいサイクルだとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月17日の記事より転載させていただきました。