トランプ前大統領の大統領再選が確実となった。事前の世論調査ではハリス副大統領の支持率が高いという結果を出していたメディアもあったようだが、もはやお馴染みの光景で、言い争う必要もないだろう。当選確率を占う機関は、おおむねトランプ氏有利の見込みを出していた。接戦州の動向で最終結果が決まる仕組みであることだけでなく、接戦州の中でも都市部が民主党、郊外が共和党に流れることは決まっているので、中間層の動向で全てが決まる。これを世論調査で正確に取り込むことは、ほぼ不可能で、そのことを念頭に置いて事前の世論調査を見ておけば、この最終結果はほぼ想定内であったと言える。
バイデン政権は安定した経済運営をしてきたと評されることもあるが、物価高に低所得者層は苦しんでいる。民主党の地盤が、「ポリコレ」系の中産階級より上の所得層に移ってしまい、低所得者層から離れている大きな流れが、目立ってしまう状況だ。いくら移民やマイノリティの権利を訴えても、それらの人々の生活が良くなる見通しがなければ、あまり意味がない。
ウクライナに巨額の支援をしている事情が、エリート層の政策で、庶民が苦しんでいるという構図を作り出し、戦争を終わりにするという公約を掲げたトランプ氏に有利に働いたことも間違いないだろう。中東情勢に関しては、親イスラエル寄りの立ち位置は、トランプ・ハリス両候補者に違いはなかったが、それだけに左派やマイノリティがハリス氏に流れる動きが鈍ったはずである。本来は、反ジェノサイドのキャンピングなどの抗議運動をした大学生層などは、民主党系のエリート(候補)層だ。この層の人々が、バイデン=ハリス政権に裏切られた、と感じている状況では、ハリス氏にトランプ氏を追い抜く上積み層が見つからなかったとしても、不思議ではない。
「自由民主主義の勝利」を謳歌したはずのアメリカは、今や「冷戦終焉」の体制の処理の失敗と言えるロシア・ウクライナ戦争に引きずり込まれ、疲弊している。さらに屈辱のアフガニスタンからの撤退で「対テロ戦争」を終わりにしたはずが、中東の泥沼の対テロ戦争にあらためて引きずり込まれて疲弊している。中国との超大国間の競争関係に勝ち抜く活路も見えてこない。この焦燥感の中で、「現在の継続」を意味するバイデン=ハリス政権への信任票を投じることに躊躇する人が多かったとしても、不思議ではない。
ハリス氏は、副大統領候補にベテラン政治家のウォルズ・ミネソタ州知事を起用したが、あまり功を奏さなかったようである。トランプ氏は、自らへの忠誠心の強く、接戦州オハイオを地盤とする若手上院議員のJ・D・バンス氏を起用したが、結果論で言えば、これは成功した。
バンス氏は思想的にトランプ氏に近く、特に外交政策の大枠で一致しているのは、大きい。
トランプ政権第二期は、バンス氏に代表される「トランプ主義者」で固められていくだろう。そこが第一期との大きな違いだ。第一期の際には、トランプ氏自身より他に有力な「トランプ主義者」が見つからなかった。結果は、閣僚の更迭に次ぐ更迭であった。
今は違う。トランプ氏の思想は広範に広がっており、しかも再選を果たしたトランプ氏の権威も高まっている。第二期トランプ政権は、第一期政権よりも、より「トランプ主義」が浸透した政権になるだろう。
しかも外交政策の枠組みを決する上院の過半数を共和党が獲得することが確実となっている。下院でも共和党が優勢だ。これらの新しい共和党議員たちは、8年前とは比べられないくらいに「トランプ主義」的な思想を持ち、トランプ大統領を賞賛する準備をしている人々だ。
第二期トランプ政権は、「トランプ主義」の色が明確で、しかも強力な政権になる。
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