米大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)が民主党のカマラ・ハリス副大統領(60)を破り再選を確実にした。多くのメディアは両者の戦いは拮抗し、激戦州の行方に依存していると予想してきたが、ノースカロライナ州、ジョージア、そしてペンシルバニア州など激戦州でトランプ氏の勝利が早々と決まり、欧州ウィーン時間で6日午前9時頃には当選に必要な選挙人270人の壁を越える勢いを見せた。欧州のメディアは一様に「選挙の大勢が判明するまで時間がかかる」と予想していたが、早い段階でトランプ氏の再選が決定したことに、驚きと共に落胆の色を隠せなかった。
例えば、ドイツの世論調査では90%がハリス氏の当選を予想していたが、投票日が近付くにつれ、トランプ氏の再選を予想する声が増えていた。10月に入ると、ハリス氏の当選を予想する声が依然、50%を超えていたが、トランプ氏の再選を予想する割合も約40%と増加してきた。その理由として、ハリス氏には余りカリスマ性がなく、何を考えているのが伝わってこないからだと指摘されていた。ただ、トランプ氏の圧倒的な勝利を予想するメディアは米国のFOXニュースなど右派系メディアだけで、欧州では多くはハリスの勝利を信じる論調が最後まで支配的だった。
複数の訴訟を抱え、さまざまなスキャンダルが報じられてきたトランプ氏がなぜ再選を果たしたかについて、米国エキスパートの分析を待ちたい。ちなみに、20時間のライブ報道したドイツ高級紙「ツァイト」電子版は欧州時間で6日午前7時前には、トランプ氏の再選が確実となったという速報を流している。トランプ氏の勝利を報じたメディアとしては早かった。オーストリア国営放送はトランプ氏の勝利が確実となった段階でも、「ハリス氏の逆転もあり得る」といった感じで報じていた。そのような中で、民主党支持の米紙ニューヨーク・タイムズが「トランプ氏の再選は75%以上確実」と早々と報じたのは流石だ。欧州のメディアではその段階ではトランプ氏の再選確実をまだ報じず、続報を待っていたのだ。
欧州の政界はハンガリーなど一部の東欧諸国を除くとハリス氏の当選に期待してきた。メディアも同様だ。トランプ氏のスキャンダルは欧州でも大きく報道された。右傾化する欧州ではトランプ氏はそのトレンドを扇動する政治家と受け取られてきたからだ。ハンガリーのオルバン首相が大統領選中にもかかわらずトランプ氏と会談するなど、トランプ氏は欧州の右派政治家からアイドル視されてきた。
選挙戦終盤に入り、世界的なポップスター、テイラー・スウィフトさんがハリス支持を表明した時、強気のトランプ氏にとってもやはり大きな痛手だったと思う。実際、トランプ氏はその直後、「自分はテイラー・スウィフトさんが大嫌いだ」という発言をソーシャルメディアに流している。また、米国で有名な知識人や歌手、女優がハリス支持を次々と表明した時、選挙戦が拮抗していると報じられていただけに、トランプ氏にとって内心穏やかではなかったはずだ。
しかし、メディアはハリウッドの有名俳優や歌手たちのハリス支持を大きく報じたが、選挙結果を見る限りでは、選挙の流れにはあまり影響がなかった。多くの有権者にとってインフレ問題や移民問題といった伝統的なテーマが投票の最大要因だったのだろう。また、「米国人はチェンジを願った」といった解説も聞かれた。華やかなパフォーマンスが展開する米大統領選に目を奪われると、選挙の流れを冷静に分析することが難しくなることを改めて知らされた。
米国の大統領選では欧州のメディアは「もしトラ」をテーマにして報じていた。もしトランプ氏が再選すれば、ウクライナ戦争、中東戦争、中国と米国の貿易戦争、台湾問題といった経済・安保問題がどのように変わるか、といったテーマだ。
トランプ氏は再選すれば、欧州から輸入される製品に対して特別関税を実施するといったニュースが数日前、流れてきたばかりだ。ドイツのニュース専門局ntvで解説者が6日、「トランプ氏は1期目の大統領時代も欧州を脅迫するような発言を繰り返していたが、実際は穏健な政策で終わった。今回もトランプ氏は欧州に対していろいろと要求するだろうが、欧州を完全に敵に回すような過激な政策はしないはずだ」といった希望的観測を吐露していた。
トランプ氏の再選が確実となった現在、欧州のメディアでも「もしトラ」から「2期目のトランプ政権」への現実的な対策がテーマ化されていくだろう。いずれにしても、中国共産党政権が世界制覇を目論み、ロシアではプーチン大統領がウクライナに侵攻し、中東戦争が拡散、朝鮮半島では金正恩総書記が核強国を目指している時だ。世界は激動期に入っている。その時、トランプ氏とバンス上院議員がホワイトハウス入りを果たした。トランプ・バンス組の指導力に期待したい。今後、”トランプ再選効果”が欧州の政界、安保などの分野で表面化してくるだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。