大接戦どころかトランプ圧勝で世論調査も惨敗

日本メディアも米国情報を丸呑み

大統領選に対する米国の世論調査では、「全米では僅差(誤差の範囲という)ながらハリス氏優勢か。激戦7州は終盤まで激戦」(リアル・クリア・ポリテイクスによる多数の集計値)でした。結果はトランプ氏の圧勝でした。数日を要する可能性もあるとされていた開票結果も一日で終わりでした。ハリス氏は完敗し、世論調査も敗北したのだと思います。

トランプ氏インスタグラムより

世論調査を信じ、開票が始まった段階でも「大接戦」の報道を流していた日本のメディアも惨敗に値します。今朝の新聞、テレビの報道には、「世論調査も惨敗」という視点での指摘が欲しかった。「激戦7州が勝敗の分かれ目」という世論調査結果も、ほぼ全州をトランプ氏がかなりの差で勝ち取り、激戦にはならなかった。大統領、上院と下院も過半数が共和党となれば、「レッド(共和党)スリー」の完勝です。

なんだったのだろう、今回の世論調査はと、思います。

米国は世論調査の最先端を行っていた国で、日本は敗戦後「民意を政治に生かす時代にしなければならない」として、米国主導で日本の世論調査が始まりました。その元祖の米国は社会が分断され、多様な人種という人口構成、州ごとに違った地域特性・多様性に加え、フェークニュース(偽情報)もあふれ、世論調査の確度が低下している。調査に正直に質問に答えない有権者が増えているらしい。

今朝の新聞(読売)で、米バージニア大教授のラリー・サバト氏が「世論調査は、トランプ氏の支持者を正確に反映していない可能性があり、実際の支持は1㌽は多い可能性が高い」と、指摘しています。開票結果の「トランプ氏277人(27州)、ハリス氏224人(18州プラス首都ワシントン)」は、トランプ氏の圧勝であり、「正直に答えない隠れトランプ支持者が1%程度いた」どころではない大差です。

バイデン氏に代わってハリス氏が大統領候補になっていらい、各種世論調査は「両候補の大接戦が続く」ほか、ハリス氏優勢を匂わせる調査もかなりありました。開票速報を伝える日本の夕刊ばかりでなく、6日の各局のテレビ欄を見ると、TBSは「歴史的大接戦の行く方」「歴史的大激戦の結末は」「大接戦か開票進む」と、3本とも同様のタイトルでした。テレビ朝日は「大接戦ハリス氏対トランプ氏」「大接戦激戦州の最新情報」も、大接戦一本やりで、これでもかこれでもかという感じでした。

正確さが落ちてきた世論調査の原因分析に加え、どこまでそれを起点にどういう選挙報道をしていったらいいのかがメディアの今後の課題です。世論調査の使い方が難しくなりました。

また、メディアの報道では、トランプ氏がハリス氏の弱点を突いた戦略の成功、不満の受け皿になった物価高、バイデン氏の影を消せなかったなど、比較的、短期的な敗因が多く指摘されています。私はそうした短期的な要因に加え、もっと世界を広く見渡した分析が求められていると思います。

ウクライナを侵略するプーチン露大統領、ロシアに傭兵を送る北朝鮮、悲惨なパレスチナ攻撃を繰り返すイスラエル首相、覇権に手を伸ばそうとしている習近平・中国国家主席のような無謀な人物を対決していくには、トランプ氏のような乱暴な悪役が必要だと、米国は判断したのだと思います。

トランプ氏は、議会議事堂の占拠誘導、国家機密文書の無断持ち出し、不倫の口止め料の支払い記録の改ざんなど4つの事件で起訴されています。「大統領経験者が刑事訴追されながら、3度目の大統領選に臨んだことの異様」(読売)、「側近が諫めた暴走するトランプ大統領(第1次政権)」(朝日)、「世界を脅かす大国の身勝手」(日経)など、耳にしたくない人物評ばかりが溢れています。

悪役には悪役がふさわしい。大衆扇動家、傍若無人、敵とみれば罵倒する常習犯の再登場です。ロシア、中国、北朝鮮、中東諸国の悪役を相手にするのは、ハリス氏より、このような人物がふさわしいと、米国の有権者は考えた。そうだとすれば、世界はこれまでの常識が通用しない時代に入ってしまった。日本政治は、「103万円の壁」「裏金批判」などに終始している場合ではないのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。