米国経済の二極化:クレジットカード延滞率の急上昇が示唆するもの

井上 真義

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昨今、米国のクレジットカードや自動車ローンの延滞率が上昇し続けていることを危惧する論調も増えてきているが、実際はどうなのだろうか。先日、ニューヨーク連銀から発表された四半期報告書(2024Q3)から考察する。

米国の家計債務残高(2024年Q3)は17.94兆ドルで、住宅ローンが12.59兆ドル(70.2%)を占め、次いで自動車ローン1.64兆ドル(9.2%)、学生ローン1.61兆ドル(9.0%)、クレジットカード1.17兆ドル(6.5%)という順になっている。

家計債務残高は以下のとおり、右肩上がりに上昇している。

住宅ローンの割合が大きく、それぞれの債務残高推移が見づらいため、分解する。

※ホームエクイティローン・その他は金額が大きくないため、省略

学生ローンは、コロナ禍における支援策の一環として2020年3月に支払が猶予されたこともあり、おおむね横ばいで推移しているが、それを除くといずれも右肩上がりだ。

右肩上がりが続いているため、一見心配に思えるが、対可処分所得比で見ると以下である。

家計債務残高は右肩上がりで推移し、その勢いを強めているが、可処分所得もそれ以上に増加しているため、対可処分所得比では右肩下がりである。

以下は米国家計債務の90日以上の延滞総額に対する対可処分所得比である。こちらも過去と比較すると低水準で推移しているため、全体としてみれば現時点では問題ない。

しかし、これで問題ないと結論付けるには、早計だろう。米国家計債務と可処分所得を全体として対比すると問題がない一方、リーマン・ショック時を彷彿させる直近のクレジットカード延滞率の急上昇が示唆するものは何であろうか?

それはまぎれもなく米国経済の二極化である。以下表から分かるように、コロナを経て、お金持ちが資産を増やしてよりお金持ちに、貧乏人がより負債を増やしてより貧乏になっている現状がそこにはある。

富裕層は株や不動産を多く持つため、その上昇からくる恩恵を受けやすい一方、低所得者層にその恩恵は少ない。さらに食料品、家賃など高騰する物価や高金利が、最近の雇用の減速もあいまって低所得者層の家計を圧迫しているのだ。

ゆえに、全体としてみれば可処分所得を大幅に増やした富裕層に隠される形で問題ないという結論になるが、中身をみると、苦しむ低所得者層が存在し、その人たちは負債を増やしている。それを端的に表すのがクレジットカードの延滞率の急上昇だ。インフレはいつの時代も弱者に厳しいのだ。

さらに学生ローンが気になる。

学生ローンは、コロナ禍における支援策の一環として、2020年3月以降、支払が猶予されていたこともあり、2020年以降はおおむね横ばいだ。そして、2023年10月に支払が再開されたのだが、同時に1年間の支払猶予期間もあったため、約半数が支払を再開していなかったようだ。しかし、その支払猶予期間も一部を除き終わった。

また、90%超の学生が利用する連邦学生ローン(政府から借りられる学生ローン)の延滞は、2024年までは信用調査機関に報告されないことになっている。これにより、2024年Q3における学生ローンの90日以上の延滞率はわずか0.49%であるものの、2025年以降、学生ローンの延滞率は、コロナ前の水準に向かって上昇していく可能性が極めて高い(報告されていないから明るみに出ていないだけで、実際の延滞率・延滞額は既に急上昇を始めている可能性すらある)。

もともとコロナ以前は、学生ローンの延滞率・延滞額は、クレジットカードや自動車ローンよりもはるかに高かったのである。これが元の水準に回帰するだけで、それなりのインパクトを持つだろう。

ただでさえ、クレジットカード債務で悩む人が増えているなか、学生ローンの返済が再開したことにより、困窮する人がさらに増えるのは間違いない。学生ローンを負っているのは、主に10代~40代、これはクレジットカード債務に悩む人と世代も重なるのである。

今後、FRBはますますかじ取りが難しくなっていく。富裕層にけん引される形で消費が強く、経済の好調が持続するのであれば、高金利政策を維持する必要が生じる。しかしそれは一方で、高金利に悩む若者や低所得者層を圧迫し続けることになるため、間違いなくクレジットカードなどのさらなる延滞率上昇につながっていく。加えて、最近は雇用も減速しているため、収入減や失業者増を通じて状況は悪化し、低所得者層をますます苦しる形で、二極化は深化していく。

おそらくノーランディングといった明るいシナリオがこの先に待っていることは難しいのではないだろうか。低所得者層を中心とした経済の下押し圧力を通じて、少なくとも軽い景気後退がやってくるように思う。