国際刑事裁判所(ICC、本部ハーグ)は21日、戦争犯罪人としてイスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を出したと発表した。同時に、ICCはハマスの指導者モハメッド・ディーフ氏に対しても人道に対する罪で逮捕状を出した。
ICCのカリム・カーン主任検察官は、「ネタニヤフ首相とガラント前国防相は2023年10月8日から24年5月20日の間、ガザのパレスチナ住民を飢えさせることを戦争手段として使用し、恣意的な殺害や民間人への攻撃に責任がある」と指摘する一方、ディーフ氏に対しては殺人、人質拘束、強姦、拷問など人道に対する罪が問われているという。イスラエル側の情報によれば、ディーフ氏は既に死亡している。
ICCの裁定が伝わると、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は「人類にとっての暗黒の日」だと強調、ネタニヤフ首相はこの決定を「反ユダヤ的だ」と反論し、「圧力には屈しない」と述べている。
ところで、欧州連合(EU)加盟国でもフランスのように、イスラエルへの武器輸出を停止すべきだと表明するなど、ガザ地区でのパレスチナ人の犠牲者が増えるにつれて、イスラエル批判が高まってきている。例えば、EU外交政策責任者のジョゼップ・ボレル氏は訪問先のヨルダンの首都アンマンで、「全てのICC加盟国はネタニヤフ首相とガラント前国防相に対する国際逮捕状を尊重すべきだ」と呼び掛けている。
そのような中でドイツとオーストリア両国は例外だろう。両国はイスラエルのパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激組織「ハマス」の昨年の「10・7奇襲テロ」事件後、一貫としてイスラエル側の主張を擁護してきた。ハマスが1200人以上のユダヤ人を殺害し、250人余りを人質として拉致した「奇襲テロ」事件に対しては厳しく批判する一方、イスラエル軍がハマスへの報復攻撃を開始し、ガザ地区で多くのパレスチナ人の犠牲者が出てきた後もそのイスラエル支持の姿勢には揺れがなかった。両国のイスラエル支持には、ナチス・ドイツ軍のユダヤ民族虐殺という歴史的な犯罪に対して、ユダヤ民族への負債感が反映している、と受け取られている(「突出するドイツのイスラエル全面支持」2023年10月27日参考)。
ICCのネタニヤフ首相らの逮捕状発布のニュースが流れると、オーストリアのシャレンベルク外相は「理解できない。納得できない」と指摘し、ハマスのテロ行動に対するイスラエル側の軍事行動、それを指揮したネタニヤフ首相らを戦争犯罪人としたICCの裁定を厳しく批判している。
同外相はオーストリア国営放送(ORF)の質問に対し、「民主的に選ばれた政府のメンバーとテロ組織の指導者を同一視するのはばかげている。ガザ紛争は非対称的な対立であり、一方は中東で唯一の民主主義国家イスラエル、もう一方はイスラエル国家の破壊を目標に掲げるテロ組織だ」と強調。同時に、ICCの裁定に対して「国際刑事裁判所の独立性を尊重するが、この決定は国際法に害を与え、裁判所の信頼性を損なう」と述べている。
パレスチナ保健当局によると、イスラエルのガザ戦闘で4万3000人以上のパレスチナ住民が犠牲となったという。この数字は未確認だ。看過できない事実は「ハマス」がガザ住民を「人間の盾」として利用してきたことだ。
いずれにしても、ネタニヤフ首相にとって行動が制限される可能性が出てくる。ICC加盟国には訪問できなくなるが、加盟国としてもICCの逮捕状が出ている国家元首や重要人物を逮捕するか否かはあくまでもその国の決定次第だ。例えば、ICCから逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領は今年9月、ICC加盟国のモンゴルを訪問したが、モンゴルはプーチン氏を逮捕しなかった。ちなみに、ICC加盟国は124カ国だが、米国、中国、ロシアの大国はICCに加盟していないから、ネタニヤフ首相はそれらの国々には逮捕を恐れることなく、訪問できるわけだ(「モンゴルは「ノーベル平和賞」を逃した」2024年9月7日参考)。
ちなみに、オーストリアはICC締結国だ。ネタニヤフ首相がウィーンを訪問した場合、同首相を逮捕する義務が出てくる。その辺について、オーストリア外務省報道官はORF側の質問に対し、「ICCから逮捕状が出ている人物がわが国に入国するというリスクを冒すことは考えられない」と指摘し、「それは純粋な仮定の話だ」と述べている。
なお、イスラエルの最大支援国の米国は今回のICCの決定に不快感を表明し、ホワイトハウスのジャン=ピエール報道官は「わが国はICCの逮捕状を執行する考えはない」と強調した。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。