経団連は2024年10月15日、「Entertainment Contents ∞ 2024」を発表。将来的に日本が目指すべき姿として、「世界における日本発コンテンツのプレゼンスを持続的に拡大することとし、2021年現在4.5兆円の日本発コンテンツの海外市場規模を2033年に15~20兆円にすることを掲げた。
具体的施策として、現在、複数の省庁にまたがっているコンテンツ政策の一元的な司令塔として、コンテンツ産業官民協議会が設置されたが、長期的には、コンテンツ振興の象徴としても、コンテンツに関する知見を有し、各種支援施策・予算等の権限を一元的に担うコンテンツ省(庁)(仮称)の設置等を検討すべきとした(図表1参照)。
以下の理由で、この提言に全面的に賛同する。
赤字が拡大する著作権等使用料の国際収支
前回投稿「官民癒着のガラパゴス体質が招いたデジタル敗戦」ではデジタル関連サービス収支が過去10年間で2.5倍に膨れ上がったと紹介した。そのうちの著作権等使用料の最近5年の収支を抜き出した図表2のとおり赤字額は拡大し続け、2023年には1兆7800億円に達した。こうした赤字拡大傾向に歯止めをかける必要がある。
経済成長促進効果のあるパロディも未だに合法化されていない
拙著「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」(以下、「国破れて著作権法あり」)193頁以下の「7.2 パロディの経済成長促進効果―英国の試算」のとおり、パロディには経済成長促進効果がある。
試算結果をもとに商用パロディを認めて、経済を成長させるべきとの英国知的財産庁の報告書を受けて、英国議会は2014年にパロディの合法化を見り込んだ著作権法改正を行った。
パロディを合法化するには、英国のように個別権利制限規定を追加する方法と、米国のように権利制限の一般的権利制限であるフェアユース規定の解釈で対応する方法の二つがある。前者は図表3のとおり旧英領諸国やヨーロッパ大陸諸国が採用している。
2度にわたる改正を経ても道半ばの日本版フェアユース
パロディを合法化するには、権利制限の一般規定であるフェアユース規定を導入する方法もある。公正(フェア)な利用であれば権利者の許諾なしの利用を認める規定である。最初に導入した米国の著作権法107条は以下の4要素を考慮してフェアユースを判定する。
- 利用の目的および性質
- 原著作物の性質
- 原著作物全体との関連における利用された部分の量および実質性(➡大量に利用したり、少量でもコアの部分を利用したりしていないか?)
- 原著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響(➡原著作物の市場を奪はないか?)
日本でもフェアユース規定の導入については過去2度にわたって検討された。最初に方針が示されたのは、知的財産推進計画 2009だった。
2011年には、文化庁の著作権分科会法制問題小委員会による報告書の中で、三類型を対象とする権利制限規定の一般規定を導入すべきであるとまとめられた。しかし、それを受けて行われた、2012年の著作権法改正では従来も必要の都度、行われてきた個別の権利制限規定の追加という内容に留まり、日本版フェアユース導入は失敗に終わったといわれた。
そうした中、2016年に次世代知財システム検討委員会が出した報告書の中では、もう一度柔軟な権利制限規定の導入に向けた法改正を検討するべきであるとの見解が発表された。報告書は柔軟な権利制限規定の例として図表3の三つの例を挙げた。
知財戦略2016に盛り込まれた柔軟な権利制限規定導入の提言を受けて、文化庁で検討した結果、図表4の一番右の著作物の表現を享受しない利用が2018年の著作権法改正で認められた。
図表4の真ん中の受け皿規定は、個別権利制限規定の最後に「以上のほか、やむを得ない場合」という条文を入れる。一番右の「著作物の表現を享受しない利用」よりは柔軟性が高く、左の米・フェアユース型に近い条文である。
「著作物の表現を享受しない利用」を条文化した著作権法第30条の4については続編で紹介する。
(次回へ続く)
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