今月、秋のゲームマーケットが開催されたのに合わせて、小野卓也さんとの共著『ボードゲームで社会が変わる』の一部が、東洋経済オンラインで公開になっています。
1回目・3回目もご覧いただければ幸いですが、とりわけ目を通してもらえたら嬉しいのは、『私の世界の見方』を扱う2回目。
プレイヤーには、「ゲーム」のような単語が書かれた小さな手札が数枚配られます。その上で、親が「いま話題のベストセラー──『○○で社会が変わる』」といった、お題カードを読み上げる。親以外は、手札の中から〇〇に入れたら「面白いかな」と思うカードを伏せて出し、シャッフルする。その上で親に「これが一番面白い」として選ばれた人が得点するルールです。
(中 略)
カードを出すだけでいいから、うつ状態の人どうしでも大喜利ができるんですね。そして普段は緘黙に近いくらい発言しない人が出したカードが、一番面白くて、全員の爆笑を誘ったりする。コミュニケーション力(コミュ力)に自信がなく悩んでいる人でも、ゲームの中ではトップのお笑い芸人のようになれるわけです。
強調は今回付与
ゲームには「うまい(強い)人が勝つ」イメージがあり、その方向で世界大会をめざすとかも一つの楽しみ方ですが、それだけだと「自分、苦手なんで」って人が、入ってきにくかったりします。
そんなとき、「能力に差があっても楽しめる」作品を出せると、助かるわけです。むしろ、どれだけ幅のある参加者をカバーできるかで、ゲームの魅力を測る指標があってもいいと思うんですよね。
ちょうど最近、そんなゲームをプレイする機会がありました。コミュニケーション系の作品としてはマイベストに入る、『ミステリウム・パーク』。2020年秋の発売ですが、まだ買えるようです。
こちら、もともと『ミステリウム』という「面白いけど長い!」ヒット作があったのを、簡略化し、持ち運び可能なサイズにしたもの。
シンプルに言うと「絵で絵を伝える」ゲームです。『ボードゲームで…』で三宅香帆さんに紹介していただいた『ディクシット』は「絵にタイトルをつけて、そのタイトルに合いそうな絵を出す」、つまりイメージ→ 言語→ イメージの順で会話するゲームでしたが、本作はイメージオンリー。
舞台はアメリカを巡回するサーカスですが、親(お題を出す人)、つまりサーカスの団長は殺されて最初から死んでいるんですね。なので口がきけず、ジェスチャーも一切禁止で、イラストが描かれたカードを渡すことでしかコミュニケーションできません。
子(答える人。1~5人)はサーカスを訪れた霊能力者で、親からイメージのみのヒントカードを渡される――それぞれの水晶玉に「殺された団長からのメッセージが浮かび上がる」んですな。それを手がかりに、適切な関係者を訪れて証言を取り、犯人に迫っていく(ヘッダー写真)。
「この人を訪ねて!」というメッセージを託して、親はカードを渡しますが、枚数が悩ましい。ずばり1枚で「正解はレジ店員だぞ!」と示せれば楽だけど、そんなチャンスはまずない。さらに、渡した分しか親はカードを新たに補充できないので、なるべく多く渡して手札を入れ替えたいけど、何枚も渡されると子が混乱してしまう。
絵のヒントだけで「人を当てる」1stステージをクリアしたら、次は「場所を当てる」2ndステージへ。最後に、絞り込まれた容疑者と殺害場所の「組み合わせを3択で当てる」の3rdステージまでを、既定のターン数内にクリアできたら、親も子も含めて全員の勝利です。
ゲーム中、子どうしは互いに相談OKで競争もないので、初対面でも「その絵の意味はたぶん…」と作戦会議が盛り上がり、親睦が深まります!
このゲームが深いのは、遊ぶとは「不自由を楽しむこと」だという哲学を、体現しているからだと思うんですよ。
ぶっちゃけ本作、もし親が口をきいていいルールだったら、「答えはこれです」と言っちゃえば終わりなんで、実に楽ちんにゲームに勝利できます。でも、それが面白いかって言ったら、超つまんないですよね。
あるいは、通常の対戦型のゲームを考えてください。プレイの最中はもちろん、「強いカードが来てほしい!」と思う。でも、その1枚さえ引けば勝利確定な超激強チート級無敵カードが入っていたら、逆にやる気出ないでしょ? 「なんだよ。ただの運ゲーかよ」みたくなっちゃって。
(ルールで口が利けないことにされて)不自由になる、というのは、言い換えると人為的に能力を下げてプレイしているわけですが、遊びの面白さはそこから生まれてくる。
不自由さをどう楽しさに変換するかが、ゲームデザイナーの腕の見せどころで、だから優れたゲームには、メリトクラシーを克服する糸口がある。
とはいえ、そんな簡単に必勝法って見つからない。なに言われても「あなたの感想ですよね?」で返し続けるのは確かに勝ち筋でも、その芸風でやってけるのって日本で1人くらいですよね。2人目以降のコピーはサムい。
かくして分け前にあぶれた人たちが、2020年から飛びついたのが「センモンカをフォローして『私も専門家と同じ!』と叫べば勝ちだルール」を設定し、SNSでプレイするコロナゲーム、ウクライナゲームでした。でもその先には、進んで日常をクソゲー化した挙句、当のセンモンカの予測が外れてゲームオーバーする末路しかなかった(泣)。
楽しく考える切り口を、ボードゲームから探る抜粋記事になっています。お目通しの上でもしよかったら、まずは以下の序文から、私と小野さんとの共著にも手を伸ばしていただけますなら幸いです!
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。