巨大企業の吸引力:国家の域を凌駕したアメリカのハイテク大手

ひと月半ほど前の10月10日に『グーグルは解体されるのか?:強制されればアップル、アマゾンも分割必至』という記事をアップさせていただきました。今回、アメリカ司法省がグーグルに対し、正式にクロームの売却を含む独占禁止法への対処について歩を進めました。

グーグルは解体されるのか?:強制されればアップル、アマゾンも分割必至
グーグルの検索機能は他社のそれに比べパワフルだと思います。いや、それ以上に他社の同様サービスを使う癖が無くなったといってもよいでしょう。地図でもそうです。グーグルマップがあまりにも機能的で便利な上に使う側にとってみれば「使い慣れて」「マイ ...

今日、私が皆さんと考えたいのはこの司法省の反トラスト法に照らし合わせた不健全な市場状態がなぜ起きたのか、そして今回の司法省の主張にどれだけの効果が期待できるかという点です。

スンダー・ピチャイ Alphabet最高経営責任者 同氏インスタグラムより

アメリカのハイテク大手、GAFAMはなぜ出来上がったのでしょうか?「おまえ、そりゃ、ビジネスモデルが素晴らしいからだよ」と言われればそうなのですが、私はブラックホールのようなものだと思っています。つまり企業が巨大化するにつれ、企業の体力に余力が出ると自社のビジネスモデルに必要な企業をM&Aし続けます。競合会社は競い合えるほど体力が続かずギブアップし加速度的にその企業は大きくなります。正に巨大な超新星が爆発してブラックホールになるのと同じ原理を辿るのだと思います。

例えは悪いですが、私の会社が今でもゆっくりとながら成長している理由は継続して投資をし続けているからです。極端な言い方ですが余ったキャッシュは全部実物投資に回していますし、日本法人では給与は一切発生させずキャッシュフローを全額投資に回わしてきました。すると着実にパイが大きくなってくるので業務成績である決算書でも自然と前年比〇%の利益増大が見込まれます。会社経営の尺度は決算書で見てもよいのですが実際の経営となると案外キャッシュフローであるEBITAとかEBITDAなどで見ています。一点、私は無借金経営を標榜しているので成長スピードが遅いのですが、健全性は圧倒しているし、第三者による経営への介入のリスクもほとんどない道を選んでいます。

私が全額投資スタイルの経営を学んだのは実は15年ぐらい前にカフェの経営をしていた時に気がつきました。席数24の私のちっぽけなカフェでした。近隣にはスタバを含め、サイズ的にも評判的にも優れた店が多い中、新参者の私が特徴出せることは何か、と突き詰めたのです。もちろん、商品、クオリティ、価格、サービスあらゆる面で工夫をしましたが、「勝てない」のです。「勝つ」とは儲かるかどうかではなく、競合と比較し圧倒的支持を得られるか、という意味です。その時、気がついたのが「自分は小さすぎるのだ。なので存在感を十分に示せないし、投資をする余裕もない」と。カフェの店舗サイズは決まっていますから多店舗展開しない限りこの事業が伸びないことを改めて体得したのです。私はカフェでバリスタをやっても似合わない男なので売却をさせて頂き、不動産事業に回帰したのです。

今、ソニーがKadokawaを買収すべく交渉につくところです。ソニーは企業体質的にハードとソフト部門が見事に融合された世界でもユニークなビジネスモデルを展開していると思います。今では「ソニーって映画とゲームの会社でしょ」と思う若者もいらっしゃると思いますが、半導体からハイテクまで何でもありです。個人的にはテレビなどハードのソニーが時代の先取りをしてエンタメのソニーを作り上げ、更に金融業も取り込み、今後はクルマまで作ろうという時代の匂いをかぎ取るのが上手な会社だとみています。

その中でKadokawaに目を付けたのは優れたアニメ系を中心とするコンテンツが多いこと、日本はアニメ、アニメと盛んに言うけれどそれで世界を席巻した企業がないこと、アニメをビジネスとして具現化させ世界展開するにはいくらでも伸びしろと開拓余地があり、これを上下一体、垂直型で展開できれば圧倒的強みとなることは一目瞭然でした。私はソニー/Kadokawaのニュースに接した時、「さすがソニー!」と思わず膝を打ちました。それは私の会社が日本のアニメを扱っていてどれほどビジネスの取りこぼしがあるか、どれだけもったいないビジネスをしているか非常によくわかっていることもあるでしょう。

グーグルの話に戻しましょう。日経によるとグーグルはウェブブラウザ―が世界の7割、検索が9割、アンドロイド7割などでこれらには他社が実施的に参入できない状態になっているとあります。では今回の司法省の判断が仮に通れば誰がメリットがあるかといえばマイクロソフトなのです。あの不人気な検索もAIのチカラでパワーアップのはずですが、人々はグーグル検索に走ります。なぜか、といえば人は一度慣れ親しんだモノは変えられないという特性があるのです。その特性をグーグル社にしろ、アップル社にしろマイクロソフト社にしろ享受しているのです。

言い換えればアメリカ司法省が反トラスト法に基づき云々というのは法律家や政治家が机上で考え、いかにも自分たちは世のため人のために仕事をしているというアピールのためでしかないのです。10月10日のブログでは「ではおまえはどう思うのか、と聞かれると分割しても問題ないと思う」と明白に述べています。理由は細胞分裂のようなものだからとしています。

トカゲのしっぽ切りと同じなのです。司法省はグーグルトカゲのしっぽを切る、そしてさすが、やってくれたね、と思わせる、しかし、切った尻尾はアップルとマイクロソフトに流れ、おまけに切られたグーグルのしっぽもまた新たな形で伸びるのです。このストーリーで一番大事なのは司法省が目指すより公平な市場形成は出来ず、GAFAM内での循環取引になるのです。

理由はあそこまで巨大化すればブラックホールのパワーが国家の域を凌駕したからです。中国はそれに素早く気がつき、アリババの巨大化を許さなかったのです。つまり国家が支配するというステータスを維持したのですが、アメリカは既にアウトオブコントロールになっている、ということではないでしょうか?(だからと言って私が中国の味方をしているという意味ではなくそれが事実よ、ということです。)

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月26日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。