「関税マン」と呼ばれ出したトランプ氏 

ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのウェブサイトのコラムリスト、ヴォルフラーム・ヴァイマー記者によると、来年1月20日からスタートする第2期トランプ政権の閣僚には少なくとも6人の億万長者がいるという。彼らが主導してトランプ氏の‘米国ファースト’‘偉大な米国の回復’を目指すというわけだ。

友人ラトニック氏を新商務長官に指名したトランプ氏(2024年11月19日、UPI)

同記者によると、トランプ氏の資産はフォーブスの推定によると約56億ドル、世界一の富豪イーロン・マスク氏は資産3000億ドル超、新しい内務長官ダグ・バージム氏は約10億ドル、教育長官に指定されたリンダ・マクマホン氏は約25億ドル、ヴィヴェック・ラマスワミ氏は約10億ドル、そして新しい商務長官に就任予定のハワード・ラトニック氏の資産は15億ドルと見積もられている。その政治能力、手腕は別として、米国の夢を実現した億万長者たちの集まりだ。

億万長者たちは平均的な米国民の願いや期待を果たして理解しているだろうか。平均的な労働者ではない彼らが今後、米国と世界の動向に大きな影響を与えていくわけだ。大資本家でもある彼らは自身の経済活動を切り離し、国益優先した政治活動ができるだろうか、等々の疑問が出てくる。しかし、11月の大統領選で少なくとも億万長者の一人でもあるトランプ氏に多くの労働者が票を投じた。億万長者のステイタスは少なくとも米国ファーストを指向する上では大きな障害とはならないわけだ。

ちなみに、トランプ氏は第一期政権の発足時、自分は大統領の給料はいらないと表明し、国のために奉仕すると語っていたことを思い出す。とすれば、第2期政権に参加した億万長者たも無給で国のために奉仕する決意の集団とみて間違いない、と期待したい。

ヴァイマー記者はコラムの中でラトニック次期商務長官の人物評を紹介している。米国に輸出される商品に10%の関税を導入すると表明したトランプ氏の世界貿易の動向に神経質となっているドイツ産業界を意識し、トランプ氏の関税政策を主導する立場にあるラトニック氏の生い立ちやこれまでのキャリアについて言及している。

同記者によると、ラトニック氏は63歳のニューヨーカーで、ウォール街の大物だ。ユダヤ人・イスラエルのために多額の寄付を行う。熱心なテニス愛好者でもあり、友人を南フランスのコートダジュールでのヨットクルーズやイギリスのクリヴデン・ハウスでの仮面舞踏会に招待することもある。トランプ氏の長年の友人であり、一時期は駐イスラエル米国大使として名前が挙がったことがあった。中国に対しては厳しい批判者だ。また。ラトニック氏はトランプ氏の娘イヴァンカやその夫ジャレッド・クシュナー氏とも親しく、トランプ氏の最も信頼する人物の一人とされている。来年1月20日の政権移行の準備を指揮しているという。

商務長官に就任すれば、同氏の世界貿易政策はドイツばかりか、日本にも大きな影響を与えることは間違いないから、同氏の考え方を理解することが大切となる。ヴァイマー記者によると、同氏は、トランプ氏の口癖である「米国を再び偉大な国にする」というメッセージについて、「アメリカはいつ最も偉大だったか」と問いかけ、「それは1900年のことだ。125年前には所得税はなく、あったのは関税だけだった。しかし、その後の世代の政治家たちは、増税と関税の減少を許し、世界が私たちの昼食を奪う状況を作り出した」と述べている。興味深い説明だ。

トランプ氏は、世界貿易のルールをアメリカに有利に再構築しようとしている。外国企業に米国内での生産を強要し、全てのアメリカへの輸入品に最低10%の関税を課す。中国製品には60%以上の関税を課す意向だ。トランプ氏は来年1月20日の大統領就任日にメキシコやカナダからの輸入品にも25%の関税を、中国の製品には10%の追加関税を課すと発表したばかりだ。トランプ政権にとって友邦国というステイタスは経済活動ではあまり意味がないことを示したわけだ。これは米国の友邦国を自負する日本にとっても当てはまることだろう。

欧州の大手メディアは、米大統領選前までは、もしトランプ氏がホワイトハウスにカムバックしたならば、というテ―マで多くの記事を掲載してきた。すなわち、通称「もしトラ」だ。そして実際、トランプ氏が再選を果たし後は、ドイツなどの輸出大国では、「トランプ氏はわれわれの製品にも特別関税を課すだろうか」という懸念が多く聞かれ、トランプ氏はメディアでは「関税マン」と呼ばれ出している。その「関税マン」に具体的な政策を助言するのが次期商務長官のラトニック氏だ。「トランプ・ラトニック組」が発する貿易政策に世界はここ暫くはビクビクしながら注視することになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。