地方議員が厚生年金に入れる制度を作ろうとしている
この手の意見書は、全国の地方議会で上がってきています。早くは平成28年頃から始まり、すでに全国約1700の地方議会のうち、1100以上の議会が、「厚生年金への地方議会議員の加入を求める意見書」を採択しています。
目黒区議会にも、平成28年以降、毎年のように、この厚生年金の意見書について、全国市議会議長会の会長から「意見書採択の検討についての依頼文」が来ています。議長会では、全国でどれだけの議会が意見書を採択したかをカウントして、定期的に報告しています。
そして今回ついに、目黒区議会内でも意見書として議案に上がってきたので、議場で真っ向から反対理由を討論しました。
厚生年金加入の仕組みと税金負担
この厚生年金というのは、労使折半です。議員の厚生年金の場合、その「労」にあたるのは役所、つまりは税金で、掛け金の半分を負担するということです。
目黒区議会で厚生年金を採用することになれば、単純計算で議員1人当たり月額5万円以上の予算が必要です。区議会36人全員では、年間約2400万円もの予算が必要になります(※目黒区議会事務局試算)。
予算と言ってますが、これは皆が収めた税金です。
さらに、全国の地方議会でこの制度ができると、年間約200億円かかると言われています。果たして国民の理解が得られるでしょうか。
厚生年金加入を推進する大会決議
令和元年には、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会の連名で「厚生年金への地方議会議員の早期加入を求める大会決議」を表明しています。その決議文にはこう記載しています。
とりわけ、厚生年金に地方議会議員が加入できるようにすることは、民間サラリーマン等が議員に転身しても、切れ目なく厚生年金の適用を受けることとなり、老後の生活や家族の心配を軽減し、議員活動を充実することができる。
そして結びには、
厚生年金へ地方議会議員が加入できるよう、所要の法整備を早期に実現することを強く求める。
と明記しています。
議員は雇用ではないという事実
繰り返しになりますが、議員は雇用ではない。議員になることは就職ではありません。
なぜそこに、税金で老後の生活保障という発想が出てくるのでしょうか?
こういう発想自体が「おかしい」と思いませんか。
EBPMに基づかない議員厚生年金制度
選挙ごとに1/3のメンバーが入れ替わる都市部の目黒区議会と、メンバーがほぼ入れ替わらない郊外の市議会では、全く状況が違います。
最近の議会ではEBPM(エビデンスに基づく政策づくり)を訴える方が多いにも関わらず、「多様な人材の参画」というような曖昧な根拠で、多額の税金を使ってまで、全国一律で議員が厚生年金に加入できる制度を作ろうというのは、EBPMにもそぐわない。矛盾していると思います。
特権と言われ廃止された議員年金制度
ちなみに、遡ること13年前、平成23年。「議員年金」が廃止されました。たった3期12年加入しただけで多額の年金がもらえるということで、「特権」だと批判する声も多かったこの制度が、廃止になった時、「廃止後1年以内に、代わりの年金制度について検討する」という付帯決議がなされています。
議員年金は、税金による財政負担が大きく、継続が困難ということで廃止されましたが、既得権益となっていた議員年金を廃止することには、反対の議員も多くいたことでしょう。もしかしたら、その時点では、こうした付帯決議をつけなければ、合意に至らなかったのかもしれません。
しかし、あれからもう10数年です。私たちは、次の世代の議員として、税金で負担されるような年金制度は、不要だと言えるではないですか。
議員も国民年金には入れている
議長会の説明では、「昔の議員年金のような特別な年金ではなく、民間企業と同じ、厚生年金だ」と言いますが、何度も言う通り、議員はサラリーマンでも就職でもありません。他の個人事業主と同じ、国民年金で、なぜ足らないのですか。
受給額が少なくて、不安だと言うのは皆同じです。目黒区にもたくさん国民年金に加入されている方はいるのに、なぜ、そういう方々を差し置いて、全国一律で、早々に議員の厚生年金が必要だということになるのですか。
議員の厚生年金制度は必要ない
「多様な人材の確保のため」といいますが、そもそも、議員というのは、社会保障を手厚くして新人をリクルートするような仕事でしょうか?そのために、報酬とは別に、議員1人当たり毎月5万円以上の税金が使われることに区民は納得できるでしょうか。
「議員になっても厚生年金がないんじゃ、老後の生活が不安だ」という人に、税金で掛金を半分払ってまで議員になってもらいたいだなんて、誰が思うでしょうか。
この、税金による、
老後の安心のための、
議員の厚生年金の加入制度。
全くもって作る必要はないと考えます。
このような意見書が、全国各地の議会で採択されていることを非常に残念に思います。まだ採択していない議会においては、納税者の視点に立った判断に期待します。