トランプ氏の要求を満たすことは現実には不可能
最近の米国で深刻な問題となっているのが、合成麻薬フェンタニルの消費が急激に増えていることだ。米国で麻薬の過剰消費の7割がフェンタニルによるもの。その致死率はヘロインの50倍、モルヒネの100倍とされている。
フェンタニルが米国に入って来るルートの大半がメキシコからだ。それにカナダからも一部密入されている。その原材料は中国からメキシコの麻薬組織カルテルに向けて密輸されている。それをメキシコで合成加工して米国に密輸している。だから、トランプ氏は中国に対してもメキシコへこの合成麻薬の原材料の取り締りを怠れば中国からの輸入品にも10%の関税を適用する意思があることを表明している。
また、メキシコからの不法移民の密入国に就いても同様で、それをメキシコ政府が取り締まらない場合も25%の関税を適用するとしている。
それに対して、メキシコで今年10月に就任したクラウディア・シェインバウム大統領は次のような反論をしている。
「メキシコから米国に密入国している不法移民は米国の国境取締局(CBP)によると、昨年12月から今年11月までで75%の減少を記録している。米国に入国している移民は事前に入国手続きアプリ(CB One)に事前にアクセスして入国することになっているから大勢の不法移民が集まってキャラバン隊を組織して強引に密入国しようとすることがなくなっている」
ところが、このパーセンテージが偽りであるという指摘もある。2023年12月に実際25万2315人が不法移民当局によって明らかにされている。同様に今年10月でも10万6344人が不法に入国しようとしたことが国境警察によって明らかにされている。
それから判断すると、シェインバウム大統領が指摘しているパーセンテージからは程遠いとされている。(southwest land border encontersから引用)。
また彼女が指摘しているキャラバン隊についても、メキシコ南部でおよそ4000名から成るキャラバン隊が3隊見つかっており、米国の国境に向かっている。更に、1500名から成るキャラバン隊も見つかっている。即ちキャラバン隊が消滅することは難しい。彼らは集団で移動すれば途中で追いはぎの被害を受けることもなく、警察も彼らの取り締まりを控えようとする傾向にある。
なぜなら数千人から成る不法移民を警察が食い止めるのは無理で、軍隊を動員しない限り、彼らの進行を阻止することはできないからである。
フェンタニルの密輸を阻止することも不可能である。メキシコで蔓延っている麻薬組織は政治家、警察、税関僚などと癒着しており、それを敢えて取り締まろうとすれば大統領の生命でさえも危ういものとなる。
シェインバウム大統領にとって、トランプ氏が要求しているような不法移民の取り締まり削減やフェンタニルの米国への密輸を抑えることは不可能であるということを彼女は知っている。
メキシコも米国からの被害を受けている
彼女は逆に米国から被っている被害の深刻さを挙げている。その一つが、メキシコで検出されている武器の70%は米国から密輸入されたものであるということ。その影響で、メキシコ国内での犯罪が横行している。
例えば、今年10月に記録された殺害された人の数は2564人で、昨年同月と比較して6.6パーセントの増加となっている。即ち、一日に82人が殺害されていることになる。前任者のロペス・オブラドール氏の6年間の政権中に殺害された人の数は19万6000人という悲惨な記録となっている。(11月25日付「デバテ」から引用)。
25%の関税が適用されれば、メキシコ経済は半年でパンクする
トランプ氏が要求していることを満たすことは容易ではないということをシェインバウム大統領は十分に理解しており、1月20日にトランプ氏が大統領に就任した時点での動向をメキシコ政府は非常に不安な面持ちで見つめている。
仮に、トランプ氏が25%の関税を適用した場合は、勿論、メキシコで生活されている米国企業の製品も大きな打撃を受けることになる。それ以上にメキシコの経済は半年でパンクすると予測されている。
メキシコのキューバへの医療支援がT-MEC協定に違反する
更に、ロペス・オブラドール前大統領が始めたキューバからの医療団のメキシコでの活動についても、米国、カナダ、メキシコの3か国協定に違反するという指摘が米国からされる可能性もある。
米国はキューバへの制裁を依然継続している。トランプ氏が大統領に就任すると、この制裁がさらに強化される可能性もある。しかも、新しく国務長官に就任するマルコ・ルビオ氏はキューバ移民2世でカストロ政権の打倒を主張している人物だ。だから、この問題についても米国はメキシコになんらかの措置を要求してくるように思われる。