アセアン市場を目指し押し寄せる中国EV軍団

日本車勢を追い落とす中国EVメーカー

タイのモーターショーでは、各社の車を比較検討できることや特別値引きもあることなどから、日本と違って多くの消費者がその場で価格交渉し購入していく。

今月10日に終わった2024年のモーターエクスポでも、わずか13日間の会期中に54,513台の車と7,982台のバイクが購入された。これは昨年のモーターエクスポで購入された53,248台を超えるもので、車の販売数において過去の記録更新となった。

ところで、昨年の今の時期にも2023年モーターエクスポが開催され、その時の販売結果や傾向を以下の記事で書いたので、今回と比較してほしい。

東南アジア市場で躍進する中国EVと苦戦する日本車
変貌する東南アジアのデトロイト これからの自動車はEVが内燃機関のエンジン車に取って代わるという強い信念のもと、タイのセター首相のEV産業育成への熱意には大変なものがある。 トヨタなどの日系自動車メーカーによる現地生産のおかげで...

あれから1年が経ったわけであるが、今回の販売台数上位20社のリストを見ると、タイからの撤退はないことを表明している三菱自動車が健闘しているものの、昨年10位以内に入っていたいすゞとマツダが圏外に追いやられた。

また、今年はスズキとスバルがタイでの現地生産から撤退すると発表したが、今後さらに日本車メーカーで撤退するところが出てくるという噂もあり、日本勢は東南アジアのデトロイトと呼ばれるタイで明らかにかつての勢力を失いつつある。

歴代上位2トップの牙城を砕いたBYD

販売内訳: ハイブリッドを含む内燃機関の車が32,070台(全体の58.7%) EVの売上は22,564台(41.3%)

マーケット・トレンド:販売全体でのEVのシェアが41.3%とEVシフトが起こりつつある中、トヨタが8,297台とトップを維持、続いてBYDの7,042台、ホンダの5,081台となった。そして中国のAIONとMGもそれぞれ3,668台、3,311台と躍進したことも注目に値する。

現地の新聞カーウソッド

欧米では中国製EVに高関税がかけれられることが決まったこともあり、筆者はタイでもEV人気は失墜かと思っていたのだが、ところがどっこい今回のモーターエクスポでは中国勢が引き続き躍進していて、ハイブリッドも入れた内燃機関車が全体の6割弱に対し、EVが4割とほぼ互角のシェア争いをしているのである。

この調子でいくと、歴代モーターエクスポで2トップであったホンダに次いで、来年はトヨタもBYDの軍門に下ることもあり得ないことではない。

アセアンではEVに勝機あり

タイではなぜこんなにEVが受け入れられるかというと、まず欧米で問題になっているEVのリチウムバッテリーが寒さに弱いという点については、そもそも冬がない東南アジアでは問題にならない。

また、充電設備についても、少なくとも大都会のバンコクでは500戸以上もある超高層の大型コンドミニアムが林立し、8階建ての低層コンドミニアムでも100戸以上のところが多く潤沢な修繕積立金を持つことから、駐車場内に充電設備を設置することは難しいことではなく普及が速い。

実際、筆者の住むコンドミニアムでも、昨年11月の年次総会でEV充電設備の設置が承認されると、早速今年2月に設置されたのである。

また、切実な問題として、前回の記事でも書いたがバンコクやジャカルタなどアセアン諸国の多くは渋滞がひどく、PM2.5による空気汚染が深刻な問題になっていることもあってクリーンなEVはウエルカムなのである。そのため、タイ政府はEV購入者に補助金を出して内燃機関車からの乗り換えを促進していて、ここでもEVには追い風が吹く。

さらに、中国はその専売特許ともいえる安売り攻勢で競争相手を打ち負かす。BYDがいい例であるが、今年は上位車種において40万バーツ(約180万円)もの値下げを実行した結果、さすがに日本車メーカーは中国EVとの値下げ戦争から脱落するしかなかったようだ。

もっとも、その後に中国EVメーカー同士の共食いが始まり、底なしの値下げ合戦となったが、日本勢は早くからこの戦争から一線を画したので、巻き込まれずにすんだが…。

津波のように押寄せる中国EV軍団

今回のモーターエクスポには、実に20社もの中国EVメーカーが出展したということだが、これはそのうち16社の今回の販売台数である。

筆者もバンコク近郊の大通りなどを走っていると、テスラ以外に1位のBYDから6位のNETAまでの車は見かけるようになってきたし、特にSUVについてはGWMをよく見かけるので、とにかくこの1年で中国車のプレゼンスは確実に上がってきているのを感じる。

しかし、それ以外にもこんなに多くの中国EVメーカーがタイに進出してきていたのには驚いているが…。

つまるところ、中国のEVメーカーは欧米市場で締め出しを食らい、経済不況に喘ぐ中国本国の需要も頭打ちになった結果、彼らにとって人口6億7,000万人とEUや北米の人口を上回る自由貿易経済圏であるアセアンが最後に残された巨大市場であり、その生き残りをかけてタイに進出してきているのである。

そんなわけで、一部の日本人は欧米でのEV事情を見て「それ見たことか、やはりEVはダメだ、日本車の勝ちだ」と自画自賛しているが、実際に東南アジアのデトロイトと呼ばれ、アセアン経済圏で自動車の生産拠点となっているタイで何が起こっているかというと、先のスズキとスバルの撤退を見ても日本車は勢力を失いつつあり、今後中国EV軍団にアセアン市場が席巻される可能性もないとはいえないのである。