シリア暫定政権の2つの大きな課題

シリア国民の大多数はイスラム教スンニ派だが、それ以外にもイスラム教少数宗派やキリスト教など多数の宗教が存在する。シリアは半世紀以上、アサド父子による独裁政治が行われてきたが、アサド政権はイスラム教だが、その中でも少数宗派のアラウィー派が統治してきた。そのアサド政権は8日、崩壊し、アサド大統領は家族と共にモスクワに逃亡したことで、アサド政権は幕を閉じたが、アサド政権下の一部の残滓勢力がバシル暫定政権に反逆に出る動きを見せている。

アル・アサド政権崩壊後初の攻撃 神風無人機がアル・ハサカ田舎のハラブ・アル・ジェイルの米軍基地を攻撃2024年12月25日、シリア人権監視団(SOHR)公式サイトから

外電によると、シリア北西部タルトゥス県の村で25日、アサド政権下の関係者やアラウィー派の住民たちが暫定政権の治安部隊と衝突し、双方で多数の死傷者がでた。中部ホムスでもアラウィー派による抗議デモが起きている。それに先立ち、シリア西部ハマー県の都市で23日、クリスマスツリーが焼かれる事件が発生した。目撃者によると、ダマスカスや他の都市で数百人がこの行為に抗議するデモを行っている。シリア人権監視団によると、デモ参加者はシリアの国家統一を訴え、シリアの少数宗派キリスト教徒の保護を求めている。

ちなみに、旧反体制派イスラム主義勢力「シャーム解放機構」(HTS)の指導者ジャウラニ氏はアサド失脚後、分裂した国の再統合を呼び掛け、「全ての民族、宗派は等しく公平に扱われるべきだ」と表明してきたが、バシル暫定政権は大きな試練に直面している。

そこでシリア情勢を理解するために同国の宗教事情をまとめてみた。
先述したように、シリアの大多数はスンニ派のイスラム教徒だ。世界のイスラム教徒の約85%はスンニ派に属する。スン二派は、カリフ(指導者)は共同体の合意と選挙によって選ばれるべきだと主張する一方、シーア派は、後継者は預言者ムハンマドの家族、特に義理の息子アリーによって継承されるべきだと考えている。

一方、アサド政権を治めてきたアラウィー派はイスラム教シーア派の流れをくむ小数宗派だ。主にシリアに居住している。この宗派の信仰は、イスラム教、キリスト教、古代宗教の要素を組み合わせたもので、9世紀にその起源を持つ。アラウィー派の教義や宗教儀式は、特定の男性信徒のみがアクセス可能であり、女性は儀式に参加できない。宗教的祝祭には、ペルシャの新年(ノウルーズ)、イスラム教のラマダン明けの祭り(イード・アル=フィトル)、キリスト教の祝祭などが含まれる。アラウィー派は1966年以降、シリアで政治的な影響力を持つようになった。この宗派の一部はシーア派イスラム教に接近している。なお、シリア内戦でイランが介入して、アサド政権を軍事支援したのは、イランがシーア派の盟主という繋がりがあるからだ。

次にドルーズ派だ。ドルーズ派の宗教は、11世紀初頭にシーア派のイスマイール派から派生した。ドルーズ派はシーア派と同様に、イマームが再臨し、地上に神の王国を築くと信じているが、スンニ派やシーア派とは異なり、輪廻転生を信じている。そのため、過激派イスラム主義者は、ドルーズ派の信仰を異端視している。世界中のドルーズ派信徒は約100万人とされ、その多くがシリア、イスラエル、ヨルダン、レバノン、そしてイスラエルが占領するゴラン高原に居住している。

シリアにはまた、ヤズィーディー派が存在する。ヤズィーディー派の信仰は、推定で約4000年の歴史を持つ一神教で、古代オリエントの宗教要素を取り入れている。この宗派には聖典がなく、信仰は口伝で受け継がれている。宗教的象徴の中心には、地上の神の代理者としての「クジャク天使」(メレク・タウス)の存在がある。その物語が堕天使のものと似ているため、ヤズィーディー派は誤って「悪魔崇拝者」と呼ばれることがある。ヤズィーディー派の信徒は主にイラク北部に住んでいるが、イラン、トルコ、シリアにもいる。ヤズィーディー派は、イスラム教の同胞からしばしば差別を受けている。特に2014年、過激派組織「イスラム国(IS)」がイラク北部を占拠した際、多くのヤズィーディー派信徒が迫害を受けた。

最後に、キリスト教徒だ。シリアのキリスト教徒は内戦前には最大150万人だったが、現在では30万人以下とも推定されている。シリア全土には約400のキリスト教会がある。キリスト教徒の内訳は、ギリシャ正教会(47%)、アルメニア使徒教会(15%)、メルキト派ギリシャ・カトリック教会(15%)、シリア正教会(14%)が主要宗派だ。他にも、シリア・カトリック教会、アルメニア・カトリック教会、マロン派、アッシリア東方教会、カルデア東方カトリック教会、少数のローマ・カトリック教徒やプロテスタント信徒が存在する。

(以上、シリアの宗教事情について、ChatGPTの手助けを受けた)

バシル暫定政権は現在、①旧反体制派勢力の非武装化、②宗派間のいがみ合い、対立を克服して「統合シリア」の建設、という2つの大きな課題に向かって挑戦しているわけだ。

シリアの暫定政府の指導者アフメド・アル・シャラア氏


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。