BRICS新規「パートナー国」9カ国を見て

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昨年から拡大を始めたBRICSが、1月1日に新設の「パートナー国」のカテゴリーで迎え入れるのが、9カ国と決まったようだ。中国政府系機関から情報が出てきている。ベラルーシ、ボリビア、キューバ、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、タイ、ウガンダ、ウズベキスタン、の9カ国だという。

BRICS expands with 9 new partner countries. Now it’s half of world population, 41% of global economy
BRICS keeps expanding, adding 9 partner countries in January 2025, after admitting 4 new members in 2024. It now makes up roughly half of the global population ...

BRICSについて、今年のカザン首脳会議で協議されたBRICS拡大の問題だけでも、私は何度か論じてきた。

BRICS首脳会議の開幕
10月22日、ロシアのタタルスタン共和国カザンで、BRICS首脳会議が始まった。24日までの日程で20カ国の国家元首・政府首脳を含む33カ国の代表団が集まった会議が開かれる。 BRICSの重要性は日増しに上がっている印象が強い...

昨年の首脳会議では6カ国の新規加盟が決定された。2009年BRICS創設時4カ国に、すぐに2011年に南アフリカが加わった後、12年間にわたって固定した5カ国の協議体であり続けていたBRICSにとって、一気に加盟国数の倍増となる拡大は大きな方針転換であった。その背景に、G7に集結する米国の同盟国陣営と敵対する姿勢を、ロシアを中心にBRICSが強めたことがある。

もちろん拡大に関しては、オリジナル5カ国の間に温度差がある。拡大に最も熱心なのはロシアで、次が中国と思われる。欧米諸国との対立の度合いの反映だ。

ただし、拡大方針そのものに反対している国はない。拡大を果たしてもBRICSの名称を変更することはない、と明言されているように、オリジナル5カ国の特別な地位は確保される。これは何を意味するかというと、拡大の具体的対象国に対して、オリジナル5カ国のそれぞれが事実上の拒否権を発動できるということだ。

たとえばロシアはパキスタンの加盟を強く推奨したと言われているが、インドが拒絶した。オリジナル5カ国は、それぞれ異なる地域の有力国だ。地域代表のような理解がある。特に自国の地域からの新規加盟国については、特別な審査権限を施すようになっている。

二回にわたる拡大措置にもかかわらず、たとえば南アジアからは全く新規加盟国が出てこない。インドが難色を示しているためだろう。バングラデシュでは、最近のインドとの関係悪化をふまえて、BRICSではなく、ASEANに入れないのか、という意見が、多く見られるようになってきているようだ。

10月カザン首脳会議の際には、13カ国が新規パートナー国として選出されたと報道された。ロシアと中国の積極推進の意向と、インドの消極的な意向が反映された選定結果であった。

トランプ再選で改めて注目される「BRICS拡大」と「脱ドル化」の行方(前編):篠田英朗 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
10月下旬にロシア・カザンで開催されたBRICS首脳会議には36カ国が参加した。「ロシアの孤立」を主張する欧米諸国の見立ては、もう通じないと言っていい。国際社会の構造転換を狙うプーチン露大統領は、BRICSで推進する「脱ドル化」をその重要なステップに位置付けている。将来の加盟国候補である「パートナー国」を新たに認定する...

1月に正式にパートナー国となるのが9カ国だということは、4カ国が抜けたということである。今度は、どの国が、どのような経緯で、選出されたにもかかわらず抜けたのか、ということに注意を払わざるを得ない。

昨年のヨハネスブルク首脳会議の後には、選出された6カ国のうち、アルゼンチンがBRICSに消極的なミレイ大統領が当選して辞退となった。サウジアラビアは曖昧な態度をとり、正式に辞退するとは宣言していないものの、BRICSの活動には参加していない。いずれもBRICSの拡大を警戒するアメリカの意向などに配慮していると思われる。

こうした経緯をふまえて、いきなり拡大対象国を新規加盟国とするのではなく、移行期間を設けて様子を見るという意図から、上海協力機構(SCO)の仕組みにならって、パートナー国というカテゴリーが作られた。そのうえで、多数の加盟希望国の中から13カ国が選ばれた。そのうえで、あらためて4カ国が、10月以降の2カ月の間にふるいにかけられた形だ。

基本的には、対象となったパートナー国側の意向で加入が見送られたと考えるべきだが、全ての事例が本当にそうなのかまではわからない。たとえば、アルジェリアとナイジェリアは、カザン首脳会議に代表団を送っていなかったようであるにもかかわらず、パートナー国候補だとされた。このアフリカの二カ国は、対象国側の意向が、そこまでではなかったということだったと推察される。

アルジェリアは、一昨年まではBRICS加入に非常に熱心であった。ところが昨年のヨハネスブルク首脳会議の際に、同じ北アフリカのエジプトの加入が認められたにも関わらず、自国が認められなかったことに激怒したと伝えられていた。機嫌を直してもらうためにパートナー国としての加入をあらためて打診したBRICS側に対して、アルジェリアは冷淡なままだったということだと推察される。

ナイジェリアは、アフリカ最大のGDPを誇る大国だ。BRICS側のほうがナイジェリアの取り込みに熱心だった。しかし欧州との関係も深いナイジェリア側が自重したようにも見える。

これで欧州に近いアフリカ大陸の西側からは、まだBRICS加盟国が生まれていないことになった。昨年のBRICSの拡大の主眼が中東諸国であり、そこに東アフリカのエチオピアが加わっただけであったこともあり、ロシアが大きな関心を抱くユーラシア大陸から中東を貫いてアフリカに抜けるBRICSの拡大は、アフリカ大陸の西岸までは到達しなかったことになる。

ベトナムの立ち位置は微妙だ。カザン首脳会議に、ファム・ミン・チン首相が代表団を率いて乗り込み、BRICS首脳会議の諸活動のみならず、合わせて30名との個別会合も精力的にこなしていた。トー・ラム氏が、国家主席と共産党書記長に就任したのは、8月のことだ。大きなベトナム内政上の変化が10月以降に起こっていたとも言い難い。どのあたりでブレーキがかかったのか、注目される。

結果として、ASEAN域内の大国であるインドネシア、マレーシア、タイが、ASEAN代表のようにBRICSに加わることになった。この展開は、中国が最も歓迎する点だろう。ASEANでは、創設メンバーの5カ国が有力国だが、それらの諸国のうちの3カ国が同時にBRICSに加わることになった意味は大きい。ベトナムも、基本的には、時期をずらして、この流れに乗っていくことになるのではないかと思われる。

最大の注目点は、トルコだ。カザン首脳会議に、エルドアン大統領自身が乗り込み、トルコはBRICS加盟への大きな関心を見せた。EUへの加盟がほぼ絶望視されているだけに、BRICSへの加盟は、トルコにとって大きな外交的意味がある。トルコについては、12月上旬のシリア情勢の急変が、BRICS諸国との関係に何らかの変化をもたらしていないかが、注意すべき点となる。

シリア情勢を見極めるための10のポイント
シリアのアサド政権が崩壊してから、情報が混乱している。シリアの知識が浅い方々が奇妙なことを言っているから、ではない。長年シリアに関わってきた方々が、「アサド派の〇〇を糾弾せよ」の日本国内の特定人物の誹謗中傷ばかりに熱を入れているからだ。 ...

もしシリア情勢の変化が、トルコのBRICS加盟に影響を与えている可能性があるとすれば、これは今後の国際情勢を見る際に、非常に重要になる点だろう。

篠田英朗国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月2回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。