ドナルド・トランプ氏は1月20日、47代目の米大統領に就任する。トランプ氏にとって第2次政権のスタートだが、どのような政策が飛び出すか多くの国々は戦々恐々だろう。トランプ氏がまだ就任もしていない段階で、同氏の関税導入発言が契機となって隣国カナダのジャスティン・トルドー首相が辞任に追い込まれたほどだ。就任前がそうだとすれば、就任後はどうなるか、といったところだ。
ホワイトハウスに復帰するトランプ氏は第1次政権時代とは違った政策を指向するだろうか。普通考えれば、第1次政権と第2次政権ではいろいろな分野で異なってくるだろう。なぜならば、世界の情勢は大きく変わったからだ。また、トランプ氏もバイデン現大統領と同じように80歳の大台に入る高齢大統領となる。トランプ氏(現78)は第1次政権時より少なくとも4歳以上年を取ったのだ。
同時に、トランプ氏にはもはや3選という可能性はない。トランプ氏が尊敬するレーガン大統領は2期を終えて退任する時、「米国ではどうして大統領は3選出来ないのか」と嘆いた、という話が伝わっているが、トランプ氏も第2次政権を終えた時に同じように呟くかもしれない。ただし、世界の政治、経済を左右させる重職の米大統領ポストには想像を絶したエネルギーが必要だ。
いずれにしても、トランプ氏には第3次政権がないことは、トランプ氏にとって強みとなる可能性がある。もはや、リベラル派が主導する世論調査結果などを気にすることなく、自身が信じる政策を実行できるからだ。
トランプ氏の動向を見ていると、興味深い点に気が付く。第1次政権では「アメリカン・ファースト」、「米国を再び偉大に」といったトランプ氏のキャッチフレーズを支えたブレインのスティ―ブン・バノン氏がいた。バノン氏はトランプ氏の第1次政権の最初の7カ月間、首席戦略官だった。一方、第2次政権では世界一の資産家のイーロン・マスク氏はトランプ氏が同氏のために新設した「政治効率化省」に就任する。すなわち、トランプ氏は第1次にはバノン氏を、第2次ではマスク氏を最側近としていることだ。
ところで、男同士の友情は「ブラザー・ロマンス」と呼ばれ、それを短縮して「ブロマンス」(Bromance)と呼ぶが、米国メディアではトランプ氏とマスク氏(53)の組み合わせを「男の友情」と受け取っている。すなわち、トランプ氏は第1次政権ではバノン氏(71)と、第2次政権ではマスク氏とそれぞれ「男の友情」を結んでいるのだ。
ちなみに、バノン氏はアメリカの政治家、メディアコンサルタント、元軍人であり、保守的な政治運動に大きな影響を与えた。バノン氏は「反グローバリズム」「ナショナリズム」を掲げ、移民制限や保守的な経済政策を推進した。ただし、トランプ氏の息子であるドナルド・トランプ・ジュニアやトランプ氏の娘であるイヴァンカ・トランプ氏とその夫で大統領上級顧問を務めていたジャレッド・クシュナー氏との関係で問題が生じ、最終的にはトランプ氏から離れていった。
ケルン大学政治学教授トーマス・イェーガー氏はドイツ民間ニュース専門局ntvでのインタビューで、「トランプ氏とマスク氏の関係が決裂する可能性はあるが、テクノロジー界の億万長者にはスティーブン・バノン氏よりもチャンスはある」と説明している。
トランプ氏の性格や気質を考える時、トランプ氏には「男の友情」が重要だ。逆にいえば、その友情を裏切った場合のトランプ氏の冷徹な仕打ちは関係者の間ではよく知られている。ntvの著名なコラムニスト、ヴォルフラム・ヴァイマー記者は「トランプ・マスク組は決裂する可能性がある」と予測し、その中で、トランプ氏の同盟者への厳しい対応を挙げている、トランプ氏は最も親しい同盟者でさえも、自分に逆らったり、退屈になったり、スケープゴートとして必要になったりすれば容赦なく切り捨ててきた。米政治学者アンドリュー・ゴースロープ氏は「トランプ氏は最終的にマスク氏に飽き、新しい輝く存在へと目を向けるだろう」と予測する。
参考までに、トランプ氏との間で「男の友情」が破綻せずに継続されている例としては、少数だが政治コンサルタントのロジャー・ストーン氏や元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏などがいる。トランプ氏にとって友情は、単なる個人的な感情の問題だけでなく、忠誠と戦略的利益が絡み合った関係であることが特徴だ。そのため、「友情」と呼ばれる関係が維持されるかどうかは、両者の共通の目標に依存している、といえるわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。