会社は何故、上場を目指すのか?:東証の上場企業数が減少に転じた背景

会社は何故、上場を目指すのでしょうか?資金調達、知名度、人材確保などがまじめな理由ですが、私が実感する限り、創業者やごくわずかの役員と称する経営陣によるIPO利益の享受が目的ではないかと勘繰りたくなるケースもないわけではないと思います。

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6-7年前に東京で出会ったある若者は自己紹介の際に「自分は某企業のIPOをCFOとして遂行し、上場したので頂いた株を売却して退社しました。今はそのお金を使って新たな事業を立ち上げようと思います」と。これを「へぇ、そうなの」と聞き流せばそれで終わりですが、昭和の時代に育った私には何か引っかかるのです。創業者と共にようやく上場までこぎつけたらそれが本当のスタート地点じゃないの、と私は思うのです。ところがIPO利益の享受に彼の心は踊ったのです。たかが1-2億円ぐらいで。

2000年代初頭は大企業がバブル後の様々な自衛策で縮小均衡を目指していた時でした。その頃20代から30代前半の若者は社会人になってから恐ろしく制約的で後ろ向きな企業の姿勢に辟易としていました。そこでプチブームになったのが「勉強しよう、MBAを取ろう、飛躍しよう」でした。日本の大学でも夜学のMBAコースを提供したり、ガッツがある者はアメリカまで渡り、MBAを取得したのです。彼らは学があるという自負と共に皆とは違うという意識の下、一部の若者は起業をし、上場を目指したのです。これが日本のIPOブームのきっかけだったと思います。

私はその頃から異業種交流などを通じてIPOを目指す起業家さんや幹部の方と話す機会は結構あったのですが、製品やサービスについての夢を語るというより上場が一つのゴールになっていた人が多かった印象があります。もしもそうだとすれば最大の間違いだったと思います。だけど誰もそれを修正しなかったのです。

事業とは継続性であり、商品やサービスを提供し、顧客や従業員、取引先の満足度を高める一種の徳の世界のはずです。ところがドライな経営者たちはマネー第一主義であり、人によっては連続起業家(serial entrepreneur)ならぬ「連続上場企業輩出者」となっていたのです。これでなんぼ儲けたという聞きたくない話が耳に入ってきたこともあります。彼らはメディアなどのインタビューではきれいごとを並べるのですが、本心から徳の心を持った人がどれぐらいいたのか、ウソ発見器にかけてみたいぐらいでした。

一方、投資家の立場からするとかつてのマザーズなど成長企業=新興企業に上場する株価には翻弄された方が多数いらっしゃったと思います。いや、今でもそれは変わりません。浮動株が少ない中、企業がIRを通じて何か発表するとそれに激しく反応し、ストップ高ストップ安を繰り返します。チャートで見ると個人投資家に人気ある銘柄はあり得ないほどまで買いあがり、そのあと底が抜けたような下落をするのです。株価がテンバガーと称する10倍をつけたと思ったら1/20に下がるという極端なケースすら生じたのです。

このブログで何度かにわたり、東証はアメリカ市場に比べて上場企業が多すぎるということを書かせていただきました。2024年、東証の上場企業数がついに減少に転じました。この上場企業総数の減少は倒産したというよりM&Aやファンドによる非上場化が主因。またIPOを目指す企業も80社程度と近年では低い水準にとどまったことが要因です。新規上場社数はこの10年、概ね毎年90社程度が上場しています。今年の80社がトレンドとして減ってきたのかどうかはまだ判断はできません。

一方、東証は上場維持のハードルを上げていますので今後3-5年で非上場化にならざるを得ない企業が増えてくるとみています。東証の上場企業数は3835社(東京プロマーケットを除く)となっています。個人的には2030年までに3500社を切ってほしいと考えています。要は上場なんて必要ない企業にはどんどん退出してもらい、上場会社の質の向上を目指してもらいたいと思うのです。

IPOのハードルも今の数倍から10倍ぐらい引き上げるべきです。その代わり東京プロマーケットを最大限活用する、という二段構えの構図を作るべきです。東京プロマーケットはその名の通り上場なのですが、プロの投資家向けの市場で上場予備軍的な立ち位置です。そこから飛躍できた企業は一般市場に鞍替えしています。現在、128社が上場しています。私としては安易なIPOマネーに小躍りする安っぽい経営者を排除し、しっかりした起業家精神とたゆまぬ改善努力をする会社だけが上場という看板を持てるようにすべきだと思うのです。

先日ある飲食の大御所と食事をしていた際、彼が「ミシュランを取るのは簡単。だけどそれを維持できないと翌年以降の落ち込みは目も当てられず、倒産するところもある」と述べていました。上場企業も同じ。株価が低迷し続けている企業は退出せざるを得ない、そうすると社会的地位があった土俵から落ちるというリスクがあることを改めて理解した上でのIPOだというのが私の願いであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月9日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。