最近は石破首相も全世代型社会保障とか歳出改革とかいい始めたが、具体策は何もない。問題があまりにも大きく複雑な利害対立がからむので、どこから手をつけたらいいかわからないからだ。
社会保険料を「社会保障税」に
そこで改革の第一歩として、社会保険料を社会保障税と改称してはどうだろうか。労働者が給与から払う保険料は、英米では給与税(payroll tax)と呼ぶ。年金は「長生き保険」などといわれるが、長生きはリスクではない。医療保険の40%以上が老人医療に使われているが、老化もリスクではない。
保険料と呼ぶと将来の給付で元が取れると思いがちだが、公的年金は次の図のように45歳以下は必ず損する金融商品である。
医療費は健康保険料の4割が老人医療費に取られ、毎年10兆円も高齢者に「支援金」などの名前で仕送りを強要されている。これを「健康保険」と呼ぶのは不当表示である。年金と健康保険を合わせて社会保障税と呼ぶのが実態に合う。
消費税を「第二社会保障税」に
もう一つの問題は消費税である。これも税収23兆円のうち、地方消費税を除く17.2兆円はすべて社会保障に使われるので、社会保障税と呼んだほうがいい。特別会計と一般会計を同じ名前にするのはおかしいという批判があるなら、消費税を第二社会保障税と呼び、全額を社会保障に使う目的税として運用で紐づければいい。
一般会計だから厳密な意味での目的税ではないが、社会保障支出は消費税収よりはるかに大きいので、消費税の使途を社会保障に限定しても財政は制約されない。これで「消費税は社会保障に使われていない」というれいわ新選組などの議論はなくなるだろう。
これで最低保障年金が可能になる。これは基礎年金を税に置き換える大改革だが、消費税を社会保障税と改称すると、年金保険料を社会保障税に置き換えるだけなので抵抗は少ないだろう。
ただ基礎年金勘定は25.6兆円だから、消費税収(地方消費税を除く)だけでは8兆円ぐらい足りない。生活保護4兆円も社会保障税にし、過剰給付になっているマクロ経済スライドを厳格に運用すれば税収中立にできる。
超党派で「最低保障年金」の実現を
最低保障年金は民主党政権で提案され、河野太郎氏も国民民主党も共産党も賛成している。立憲民主党の野田代表は、これを立法化したときの首相である。これによって就職氷河期の高齢フリーターにも月額6~7万円の最低所得を保障できる。
これは世代間対立ではないので、シルバー民主主義はそれほど大きな障害にはならない。むしろ消費税の増税で内閣が倒れたトラウマが政治家にも国民にも大きく、消費税を増税する政党がない。野党はみんな減税を提案している。これを打開しないと最低保障年金は不可能である。
その第一歩として社会保険料80兆円と消費税23兆円をまとめて社会保障税と呼べば、保険料を消費税に置き換えるのは同じ税の中のやりくりになる。第二社会保障税の増税は国会の同意が必要だが、「社会保障税は総額で管理し、すべて社会保障に使う」と法律に書けばいい。
税制の専門家には怒られそうな暴論だが、大事なことは社会保障の保険という擬制をやめ、税負担としての性格を明確にすることである。税としては逆進的で穴だらけの社会保険料より消費税のほうがはるかに公正で、徴税コストも低い。
できれば社会保障税は歳入庁で一括して徴収することが望ましいが、それは不可欠の条件ではない。今でも保険料と消費税は一体運用しているので、その実態に合わせるだけでいい。
河野氏が最低保障年金を提案しているので、これに賛同する政治家が超党派で集まり、まず社会保障税を提案してはどうだろうか。もちろん大改革なので1年や2年ではできないが、毎年3兆円以上増える社会保障支出を考えると、のんびりはしていられない。