1月6日、インドネシアがBRICSの正式メンバーになることが発表された。すでに「パートナー国」となることが、他の8カ国とあわせて、発表されていた。その中には他のASEANの地域大国であるマレーシアやタイもいる。
ただし実際には、インドネシアの国力は、それらの二カ国と比しても群を抜いている。そのインドネシアの実力を高く評価する形で、BRICS側がインドネシアを正式メンバーとして迎え入れたいという率直な態度をとったということだろう。
インドネシアは現在、GDPランクで16位の地位にある。南アを除く他のBRICS4カ国とG7諸国に次ぐ経済規模を誇っているのが、インドネシアだ。BRICSが特別視したことに、違和感はない。
経済成長率が5%近い。人口は2.7億人を誇り、増加率は鈍化してきているとはいえ、まだ増加し続けている。インドネシアのGDPは、5年程度のうちに韓国のGDPを抜き去る可能性がある。恐らくは20年もすれば日本のGDPも抜くだろう。
ASEANにおけるインドネシアの存在感も圧倒的だ。東南アジアの最有力国である。BRICSは、インドネシアを正式加盟国とし、マレーシアとタイをパートナー国としたことによって、ASEAN全域に、強烈なラブコールを送った。これは特に中国にとって大きな意味がある。
もちろんインドネシアは、欧米諸国と敵対的な関係に入りたいと思っているわけではない。バランス外交の道筋として、OECDへの加盟も目指している。
インドネシアに実力がなければ、欧米諸国の嫌がらせにあって、BRICS加盟は、OECD加盟への足かせになったかもしれない。しかし現実のインドネシアの実力を考えれば、BRICSに入ったのであれば、これは是非OECDにも入ってもらわなければ困る、という流れになるだろう。
そうした情勢の中、石破首相がインドネシアとマレーシアを訪問した。インドネシアでは、OECD加盟申請の後押しを約束したという。妥当な姿勢だろう。
残念なのは、「日本もインドネシアの給食制度の支援をしたい」と石破首相が表明したことだ。SNSなどでは、かなり否定的な反応が見られる。子どもの貧困が広がっている日本が、なぜインドネシアの給食制度を支援できるのか、というわけである。
日本の給食制度をふまえて、日本人がインドネシア人と協働できる余地があるのであれば、それは良いことだ。ただ、67歳の石破首相や、他の外務官僚の頭の中に、万が一にも、日本は先進国で、インドネシアは発展途上国、という意識が過剰に存在しているなどということがあったら、懸念しなければならない。
BRICSは、インドネシアを正式加盟国として認め入れた。だがG7諸国のほうだけは、頑なに「まだまだいつまであってもインドネシアは発展途上国だ」と力説し続けるのだとしたら、これは由々しき事態である。
インドネシアとマレーシアは、イスラム圏の有力国でもある。私は、過去1年以上にわたり、ガザ危機対応の機会に、日本はインドネシアやマレーシアなどと連携を深めていくべきだ、と書いてきた。
その意味では、石破首相の姿勢は評価したいが、もう少し明示的にやってほしかった気もする。ガザは議題になったというが、ともに事態を憂慮している姿勢を、もっと見せてほしかった。
いずれにせよ、ASEANを軽視する選択肢は、日本には残されていない。ASEANの主導国であるインドネシアを、大国とみなして重視する以外に、日本がとれる態度はない。
考えなければならないのは、「支援」というよりも、世界の諸問題にともに立ち向かう「パートナーシップ」の構築だ。国民にも、そのことがはっきりとわかる外交を心がけてほしい。
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「篠田英朗国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月2回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。