単なる競争ではなく顧客利益に適う競争だけが経済を成長させる

どの事業も、顧客の見出す価値は、価格よりも大きく、差が顧客の利益にならなくては、成立し得ない。一方では、価値と価格の差として、顧客の利益があり、他方では、価格と価値創造費用の差として、資本利潤があるからこそ、企業経営は持続可能になって、供給能力が確保される。

顧客の利益が拡大すれば、資本利潤の拡大につながり、資本利潤が顧客の利益に適う需要の創造のために再投資されるとき、その好循環のもとで、経済は持続的に成長する。また、顧客の真の利益に適う需要創造において、先行する企業は、最も大きな資本利潤の拡大を得るわけで、この先行者の利益こそ、競争を促す誘因にほかならず、顧客の利益の拡大を目指す競争こそ、経済成長の原動力なのである。

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ある企業において、科学技術的に生産方法等を改良することによって、また経営技術的に在庫管理等を高度化することによって、価値創造費用を下げることができれば、資本利潤は拡大する。しかし、競争は、科学技術的にも、経営技術的にも、激しくなされるから、価値創造費用の低下が一般化することで、価格は下落していくはずである。これが競争による価格の公正化である。

この価格が低下する過程で、顧客の見出す価値が同じならば、顧客の利益は拡大し、それが新たな需要を生んで、経済成長につながる好循環が生じる。また、ここでも、価値創造費用を引き下げる競争において、先行者には、価格の一般的な低下までに、資本利潤の拡大があって、そこに競争への誘因があるのである。

企業間の価値創造費用を下げる競争において、価値も低下していくのであれば、顧客の利益は拡大しない。同様に、新たなる需要を創造しようとする競争においても、それが顧客の真の需要に適わなければ、新たな顧客の利益は生じない。顧客の利益の増大がなければ、経済の成長はなく、逆に、経済の低成長が定着していれば、顧客の利益の拡大のない不毛な競争の存在を推定させるわけである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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