三菱UFJ銀行貸金庫事件で考える「FXと競馬の違い」

三菱UFJ銀行の貸金庫窃盗事件は、逮捕された容疑者が盗んだお金を競馬やFXに注ぎ込み、10億円以上の損失を出していたと報じられています。「ギャンブルで10億円」と聞いて、私の頭に浮かんできたのが写真のカップ麺です。

それはともかく、この報道で気になるのが、競馬とFXの違いです。

競馬は誰もが知っているようにギャンブルの一種で、馬券を購入した人たちのお金を集めて、その約25%を差し引いた残りの金額を購入者に分配する仕組みになっています。

競馬の期待値は75%です。つまり100円の掛け金で戻ってくるお金は平均で75円です。繰り返しお金を注ぎ込んでいけば、ほぼ確実に資金は消えてしまいます。

一方のFXに関しては、投資に縁のない多くの人はギャンブルと同じようなもので、危険な商品というイメージを持っていると思います。

blackred/iStock

確かに、FXも短期的に見れば、為替が上昇する確率と下落する確率は半々で、ルーレットの赤と黒にチップを張っているのと似ています。売買を繰り返していると売りと買いのレートの差(スプレッド)分は確実に損をして、資金を減らしてしまいます。

さらにFXにはレバレッジがかけられる特徴があります。日本国内であれば個人であれば最大25倍までのレバレッジをかけて取引可能です。レバレッジは少ない資金で大きな利益を出せる可能性がありますが、逆に動けば短期間に大きな損失を出すことになります。

このようにFXもギャンブルに似た側面がありますが、長期的に見れば資産を円以外の様々な通貨に分散するためのツールとして使うことができます。

また、円安局面では外貨の買いポジションを保有し続けることで、金利差からのスワップ金利を受け取りながら為替差益も得ることができます。

私はFX取引を長年やっていますが、現在保有しているドル円のポジションで最も古いものは2013年にドルを買ってそのままずっと保有しているものです。短期の売買に使えばギャンブルと同じになってしまいますが、長期で活用すれば投資のツールとして活用できるのです。

容疑者がどのような為替取引を行っていたのかは想像するしかありませんが、おそらくレバレッジを高くして、短期で売買を繰り返していたと思います。

せっかく投資のツールとして有効活用できるFXを、競馬と同じギャンブルのように使ってしまったわけです。

それにしても人から盗んだお金を10億円を溶かしてしまい、事件発覚を防ごうと隠ぺい工作を続けていた容疑者の心理状態を考えると凄まじいストレスだったと想像します。

1年前の「一平ちゃん事件」もそうですが、今回の容疑者も周囲の人たちに不審がられる態度を一切見せなかったとすれば、すごいメンタルだと思います。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。