貸金庫って何なの?:災い転じて三菱UFJ銀行の業務効率化が進む可能性も

三菱UFJ銀行の支店長代理が起こした貸金庫での窃盗事件。私が思ったのは銀行は1円単位まで管理する厳格さがあるのにこういうところはすっかり抜け落ちているのだな、ということ。これには2つ見方があり、1つは銀行もパーフェクトではないこと、もう1つは貸金庫業務は主流ではないので目が届かなかった、ということではないかと思います。

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私はもちろん借りたことはないですし、今後も興味を持つことはほとんどないでしょう。ただ、人によっては必要とするのでしょう。家に大事なものを置けない事情がある、金庫を置くスペースがないということだと思いますが、もともとは日本の住宅が紙と木で出来ていて燃えやすいので大事なものは安心安全が確保されていそうな銀行の貸金庫はリーズナブルな代替置き場ということかと思います。

相続対策があるだろう、と思われる方もいると思いますが、税務署はそこは見抜きます。なぜなら銀行の貸金庫であるゆえに定期的に貸金庫使用料が銀行口座から引き落とされているので税務署員が見れば一発でわかるのです。「お亡くなりになった〇〇さん、貸金庫借りていらっしゃいましたね。中身を見せて頂けませんか?」です。開けてびっくり金銀財宝ザックザクというケースもあるようです。

貸金庫に預けられないものに現金があります。だけど、預けてよいものには各種証書、権利書の他に貴金属、宝石、コレクション、公社債券などがあるのです。一般的には宝石は身に着ける機会もあることからどちらかといえば金の延べ棒とか金貨なのだと思います。そして今回の事件で犯人もそれを知ってていたのか、ちゃんと金の延べ棒をこっそり持ち出し、換金しているわけです。

この事件を受けて大手銀行を中心に貸金庫業務を見直すところが続出していますが、貸金庫事業を「止める」とも言えないので「新規お断り」になってきています。

私なら民間の倉庫業者が貸金庫施設をなぜ作らないのか、と思います。どこの銀行の支店にでもあるような金をかけていない古臭い貸金庫より最新のセキュリティシステムを導入した貸金庫事業をやればいいのに、と思います。もちろん、家から歩いていける便利さは少し欠けると思いますが、貸金庫に行くこと自体がそうそうあることでもないと思うのです。例えば家の権利証などは買った時もらったら売る時まで使わないのが普通でしょう。

民間業者がセキュリティを強化してやるとすれば本人確認が最大のポイントですが、入り口での二段階認証制度はマストだと思います。顔認証も取り入れるべきです。あと、貸金庫内でトラブルが起きないような一定の監視を行い、セキュリティ会社とのタイアップをすればかなりしっかりした貸金庫事業は可能だと思います。もしも大手銀行が貸金庫事業から撤退したいならそちらに誘導することで貸金庫事業から離脱できるでしょう。

これは銀行事業の見直しにもつながります。日本ほど銀行の支店網が張り巡らされているところも少ないと思いますが、銀行自体、どんどん効率化しています。また、窓口業務も昔は番号札取ってからずいぶん待たされたし、更にその昔は銀行の営業担当が預貯金をもらいに営業先のご自宅まで御用聞きのようにして足しげく通うという時代もありました。信用金庫の新入社員のスーツのお尻は自転車に乗り過ぎて直ぐにテカテカになるという話を知っているのは結構ご年配の方だけかもしれません。今では窓口に来るのはお年寄りばかり。ちなみにカナダの銀行でもガラガラで金融街の支店でも窓口には2人ぐらいしか行員はいません。

変な話ですが、今回の事件をきっかけに貸金庫事業が銀行業務から消え、そのおかげで支店の統廃合が進み、金融機関の業務効率化が進むという災い転じて福となす、ということもあるのかもしれません。

日本は何か問題が起きないと改善するきっかけが生まれないのですが、いざ改善となると猛烈な勢いで展開する特徴があります。三菱UFJ銀行以外の銀行幹部の方は「よくやってくれた」と思っている方もいるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月19日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。