米国雇用:業種別分析③「建設」

前回に続き、今回は全米雇用の第8位を占める建設部門の分析である。

(前回:米国雇用:業種別分析②「政府及びレジャー・宿泊・飲食」

今回も以下グラフを念頭に読んで欲しい。雇用者数のデータは断りがない限り、非農業部門雇用者数(事業所調査)から作成したものである。

※ 第5位の小売、第6位の製造、第7位の金融は年次改定暫定値を当てはめると、雇用は前年比マイナス(金融は0)と、雇用の勢いを失っているため、分析の対象外としている。

【建設】

雇用者数830万人、全体の5%を占める建設部門は前月比でマイナスを記録する月が出ているなど、最近やや陰りはあるものの増加基調が続いている。2024年の1年間の雇用者数は19.6万人増(約1.6万人増/月)である(年次改定は考慮していない数字)。

2024年に入り求人が急減しているのが気になる。求人が減ると採用も減り、いずれ失業も増えていくからである。

この理由は明確には分からなかったが、建設支出が2024年半ば以降頭打ちになっており、インフレを加味すると実質マイナス成長になっていることが関係しているかもしれない。

建設支出

米国国内で着工された建設支出総額を集計した指標。具体的には住宅建設(一戸建て・集合住宅など)、非住宅建設(商業・工業施設など)、公共建設支出(道路などのインフラ関連、公共施設など)がある。

事実、住宅市場はかなり冷え込んでいる。住宅ローン金利も高止まりし、住宅保険料もインフレや自然災害の増加を受けて高騰しているため、住宅建設許可件数も住宅着工件数もさえない数字が続き、新築住宅も中古住宅も売れ行きが落ち、価格も頭打ちが続き、在庫もダブついている。

※ 中古住宅販売件数はリーマン・ショック後のレベルにまで落ち込んでいる。
米国では新築より中古住宅の方が大きな市場規模を持ち、販売件数比較では新築15%・中古85%。
(中古住宅販売件数は一次データが入手できなかったため、トレンドを把握する程度にご参照ください)

※ 新規住宅供給がなく、かつ現在の販売ペースで住宅が売れた場合、在庫が何カ月でなくなるかの指数。
2024年11月現在、8.9カ月と高水準。

建設支出の住宅建設・非住宅建設の一定割合を占める商業用不動産も以前の投稿から変わらず悪化し続けている。このような状況では新規投資が多く出るような事態にはならない。

例えば、CMBSの30日以上の延滞率(2024年12月現在)は、商業用不動産全体で6.57%、オフィス部門で11.01%と上昇を続け、Multifamily(アパートなどの賃貸市場)も延滞率が足元で4.58%と急上昇している。賃貸市場はオフィスより数倍市場規模が大きいため、オフィスに続く賃貸市場の悪化は更なる懸念の増加である。

Trepp資料より抜粋
※ CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)は商業用不動産(CRE)の資金調達の一つの手段
CMBSはCREローンの約10%を占める。
CMBSの延滞率=CRE市場全体の延滞率ではない(CRE市場全体の延滞率はより低い)。

賃貸市場の延滞率が上昇しているのは、ローン借換えの際の金利上昇に伴うコスト増やインフレに伴う保険・公共料金の価格上昇がある一方、家賃上昇の制限を設ける自治体もあることからコスト増を転嫁できないケースがあり、さらに賃貸物件の短期的な供給増から空室率も6%を超えて上昇し続けているからである。

MOODY‘S Webサイトより抜粋

最後に、公共建設支出であるが、前年比の推移をみると、この20年ほどは大統領就任1年目(背景が薄緑色の個所)に投資が落ち込む傾向があるため、今年はあまり期待できない可能性が高い。

金利が高い状態が続くと、単純に消費者は住宅を買えなくなるし、企業は設備投資を減らすため、この分野は金利が下がらない限り、厳しい状況が続くのかもしれない。住宅販売が増加すると家具・家電などの耐久消費財へ、商業施設建設が増加すれば関連する設備投資への波及効果が見込まれるため、景気動向と密接な関連を持つこの分野がさえないのは景気には良くないことだ。

一方で、昨今のAIブームから生じるデータセンター投資などは明るいニュースで、今後この分野のけん引役となっていく可能性は十分あるだろう。

なお、建設部門は、雇用統計年次改定の暫定値で4.5万人(約4千人/月)の下方修正が見込まれているため、現在の雇用者数をやや押し下げる形となる(以下グラフは再掲)。

3回にわたって米国の雇用を分析したが、民間教育・医療分野はやや減速するものの今後も好調が続くだろう。一方で、政府部門は大幅に失速することが予想され、また他の部門も決して良い状況ではない。

雇用統計の年次改定で暫定値通り81.8万人の下方修正がなされれば、雇用を約6.8万人/月押し下げることになるので、雇用者増は10万人前後/月となり、その多くを、民間教育・医療部門が占め、他部門の雇用が盛り上がってこない限り、一本足打法に近い状態に当面なるはずだ。トランプ政権に移行後、AI投資への機運がさらに高まっているように感じるが、それらからの雇用が安定的な軌道に乗ることを期待したい。

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