価格変動は価値変動に平行していて、価値が下がれば、価格も下がるわけだが、その関係は直線ではなくて、多くの場合、S字に歪むのである。投資は、その本質的な側面として、より安く買って、より高く売ることに帰着するが、それをS字カーブで表現すれば、カーブの崖の下で買って、崖の上で売ることになるから、投資の極意は、巧みにS字カーブを発見し、より積極的には、S字カーブを創造することになる。
利回りが低下すると、債券価格は上昇するから、イールドカーブ上にS字カーブ的な歪みがあるときは、崖の上の年限の債券を買っておくと、時間の経過とともに、利回りは崖下へ急低下し、価格は急上昇する。イールドカーブ全体が上方に移動し得るので、価格の絶対値が上昇するとは限らないが、価格変化は相対的に有利になる。これがロールダウン効果で、この効果を狙うことは、債券投資の基本的技術である。
社債の利回りは、国債の利回りが基礎となって、発行体の信用力に応じて、上乗せ金利が付加されることで形成されていて、上乗せ金利はスプレッドと呼ばれている。スプレッドは、信用力が低下するほど、拡大するから、横軸に信用力をとり、右にいくほど信用力が低くなるようにしておき、縦軸に利回りをとると、右肩上がりのカーブができる。
一般に、社債には信用力の指標として格付がついている。最高格付はトリプルAで、順次、ダブルA、シングルA、B格、C格と低下していくので、最低格付はシングルCになるが、金融機関や年金基金等の機関投資家においては、信用リスク管理の手法として、通常の投資対象をトリプルB以上の格付のある社債に限定している。こうして限定された社債は、投資適格債と呼ばれている。
格付がダブルB以下の社債は、ハイイールド債券と呼ばれて、投資不適格とされるわけではないが、投資適格債への投資に制約がないのに対して、様々な制限のもとでしか投資され得ないから、需要不足で価格が低迷する、即ち利回りが高くなる。故に、信用スプレッドのカーブは、トリプルBとダブルBとの間で必ず崖を生じて、S字に歪むわけである。
トリプルBとダブルBとの間の利回り格差は、投資適格という人工的に設定された境界によって作られているから、信用リスクの格差を正しく反映したものではない。故に、ダブルBの利回りは、理論的なスプレッドよりも、大きなスプレッドがついていて、ダブルB社債は、投資対象としての魅力が高くなっている。つまり、S字の崖の上に投資の有利な機会があるのである。
ダブルB社債の魅力は、静態的に、スプレッドが厚いということだけではない。発行体の信用力は変化し、その変化を反映して、格付は改訂されていくので、動態的に、ダブルBがトリプルBに格上げになれば、スプレッドは大幅に縮小するので、債券価格は急上昇する点も魅力なのである。逆に、トリプルBがダブルBに格下げになれば、債券価格は急落するから、これで、ダブルB社債がトリプルB社債よりも相対的に価値の高いことは明らかである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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