【鹿児島】桜島を望む島津の別邸・大名庭園:世界文化遺産「仙厳園」

昨年末旅した南九州。最後に立ち寄ったのは鹿児島市でした。鹿児島中央駅からバスに乗り、市街地・天文館を抜けて国道10号線を錦江湾沿いに進みます。

島津ゆかりの洋館をリノベーションしたスターバックス

バスを降りて国道沿いを歩いていくと名勝・仙厳園(せんがんえん)の手前でスターバックスが見えてきました。それだけなら全国どこにでもあるような風景なのですが、ここのスターバックスは一味違います。

いや、コーヒーの味は一緒なんですが、一味違うのはこの店舗の建物です。かつては芹ケ野島津家金山鉱業事業所として利用されていましたが、昭和61年に串木野市から島津ゆかりのこの地に移築されました。それをリノベーションしてスターバックスに転用したものです。

各部屋のアートワークがこの建物の歴史とスターバックスのコーヒーを語ります。

2階は明るく広々とした空間。開店直後でまだ空いていたので海を望む席が空いていましたのでこちらに座ります。

こちらの席からは鹿児島のシンボル・桜島を目の前に見ることができます!

洋館で桜島を眺めながら朝食を頂く。なんとも贅沢な時間です。これがやりたくて今朝は朝食を抜いてここまで来ました。仙厳園に来た際には是非寄ってほしい場所です。

日本を代表する武家・島津氏が造りあげた日本屈指の名園・仙厳園

スターバックスでお腹を満足させたらいよいよ島津家が造りあげた別邸であり庭園でもある名勝・仙厳園を歩くことにします。庭園は錦江湾に面しており、海の向こうに雄大な桜島の姿を望むことができる絶好のロケーションです。

仙厳園は江戸時代初期の1658年から61年にかけて19代当主島津光久によって別邸が建てられたのを起源とします。江戸時代末期、29代忠義の時代には本宅としても利用され、内外の要人を招く迎賓館的な役割も果たしたとされています。

そんな仙厳園の中心的な建物「御殿」をのぞいてみましょう。

こちらは30代、忠重が12歳まで過ごした部屋であり、ここで学を積んだ後明治期には公爵の地位を得て海軍に進み英国大使館付武官となりました。

こちらは「披露の間」と呼ばれ、島津家に届いた数々の贈り物をこの場で披露するために用いられた部屋でした。贈り物をオープンするためだけの部屋なんてなんて贅沢。。。島津忠義氏の御令嬢だった昭和天皇の皇后・香淳様もお座りになったことがある椅子です。

忠義が寝起きしていた寝室は、意外にも建物の中央部にありました。こういった部屋は建物の奥の方にあることが多いのですが不思議な間取りです。床下にもみ殻が敷かれ、冬でも暖かくなるよう工夫が凝らされています。

池に映るサッシのリフレクションが美しい。

庭も美しいのが仙厳園の特徴。なにせ敷地が15,000坪もあるわけですから至る所に庭があります。御殿の中にももちろん日々苦労の絶えない中でひとときの安らぎを与えてくれる庭園が存在します。

湧水越しに眺める桜島。幕末の激動期、この地に居を構えた忠義はここで何を想っていたのでしょうか。

御殿の様子を庭側から望む。

御殿を出て仙厳園の東の端へ。入り口からここまで結構歩きました。ここは桜島がもっともよく見えるビュースポット。

真っ青な錦江湾。そしてその向こうに桜島が何も遮るものなく見ることができます。

国鉄型のキハ47が走り抜けていきます。最高!

先ほどの写真にも写っていましたが教会の先端部分にも見えるもの。こちらはかつて島津家が開発しようとしていた水力発電施設の一部です。仙厳園は別邸、名勝という面を持つ一方、近代日本の産業革命を担おうという施設もいくつかつくられていました。

かつて列強に対抗するため大砲を鋳造した反射炉跡。

その最たるものがこの反射炉跡。幕末、欧米の植民地化を恐れた島津斉彬は彼らに対抗するため「集成館」を中心とした西洋式の工場群を建設します。その中で大砲の鋳造施設を作ったのですが、そのひとつがこの反射炉であり、仙厳園内では今もその跡が残っています。

実は仙厳園は世界文化遺産だといいましたが、厳密にいうとこの反射炉跡や仙厳園に隣接する尚古集成館、旧鹿児島紡績所技師館のみがその構成施設となっているのです。

集成館の機械工場だった世界遺産・尚古集成館。
大正期から集成館の歴史を伝える博物館となっています。

西洋の技術を日本に伝えるためにやってきた
西洋の技師たちが暮らした世界遺産・旧鹿児島紡績所技師館

最後に仙厳園奥にあるちょっと変わった神社をご紹介しましょう。その名も「猫神社」。

戦国時代、島津義弘が戦地に連れて行った猫を祀った神社とされています。時計などない時代、猫は時間によって黒目の大きさが変わることから時計代わりに猫を連れて行ったのだとされています。今では愛猫家の聖地として猫好きな方がここを参り参拝をしています。

おわりに

今回私はここまでバスで来たのですが、バス停から仙厳園までは車がビュンビュン走る国道10号のトンネルを潜ってきました。一応鹿児島中央駅から仙厳園までのバスがあるにはありますが、本数はとても少なく便利とは言えない状況でした。

世界遺産になったこともあって観光客が急増したことを受け、この度仙厳園の目の前にJR九州が日豊本線内に「仙厳園駅」を開業することとなり急ピッチで工事が進められています。3月15日のダイヤ改正時に当駅がオープンした暁には利便性はかつてないほど高まります。

島津家の華々しい歴史を知ることができるとともに近代日本の産業の黎明を窺い知ることができる仙厳園。みなさんもぜひ一度訪ねてみてください。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。